2022國學院大学A日程『源氏物語』浮舟「かの人の御気色〜」本文・現代語訳と解説
2022年 國學院大学A日程
2022國學院大学A日程『源氏物語』「浮舟」|本文全文・現代語訳・語注・読解ポイント
このページでは、2022年 國學院大学A日程 国語(古文)で出題された
『源氏物語』浮舟巻の一節について、入試本文全文と現代語訳を掲載し、
あわせて語句・文法のポイントや出題のねらい・読解のポイント、
復習チェックリストを整理します。
場面は、浮舟を山里に住まわせている薫大将(男君)と、
彼女に思いを寄せる匂宮(男宮)とのあいだで揺れる恋模様の一コマです。
浮舟が自分から離れていくのではないかと感じた匂宮が、
抑えきれない恋心から山里へと向かう心情が描かれます。
國學院大学の個別試験レベルの文章ですが、人物の心情・和歌的表現、
敬語を通した視点の読み取りなど、共通テスト古文でも問われる力と直結しています。
- 入試本文を使って、『源氏物語』浮舟巻のイメージをつかみたい受験生
- 共通テストと私大古文の両方を見据えて、心情表現の読み方を鍛えたい人
- 授業・講習で、國學院大の過去問を教材として扱いたい先生方
| 試験 | 2022年 國學院大学A日程 国語 |
|---|---|
| ジャンル | 『源氏物語』浮舟巻(物語文学) |
| 場面 | 浮舟をめぐる薫大将と匂宮の恋愛・三角関係の一場面 |
| 読解の軸 | 匂宮の心情・敬語・比喩表現・人物関係の整理 |
すぐ確認:場面の要点・指示語・比喩・敬語(1分)
結論:匂宮(宮)は「女君の返事が途絶えた=薫大将(かの人)側に心が定まった」と推測しつつも、
口惜しさと恋心の高まりから山里へ向かう――この
推測(ぬるなめり)+感情の爆発(例の、いみじく思し立ちて)が、この場面の核です。
| 項目 | 1行要点 | ここでの見方 |
|---|---|---|
| 場面 | 女君(浮舟)の返事が途絶えがちで、匂宮が不安と嫉妬を抱え、山里へ向かう直前〜道中。 | 「口惜しくねたく」→「例の、いみじく思し立ちて」の流れで心情の加速を押さえる。 |
| 指示語(人物) | 宮=匂宮/かの人=薫大将(男君)/女君=浮舟(山里にいる)。 | 「誰が誰を思うか」で迷ったら、まず宮=匂宮に固定して読む。 |
| 比喩 | 「行く方知らず、むなしき空に満ちぬる心地」=恋心の行き場がなく、虚空いっぱいに広がる感覚(古今集を踏まえた表現)。 | 直訳で止めず、不安・焦り・恋の暴走につながる比喩として処理する。 |
| 敬語・助動詞 | 尊敬(思す・おはしましぬ等)で匂宮を高める/「ぬるなめり」で匂宮の推測を示す。 | 敬語は方向(誰を高めるか)、助動詞は確定か推測かを見分ける。 |
| 設問観点 | 心情(口惜しさ・ねたさ・不安)/対立(匂宮↔薫大将の力関係)/比喩の働き(古今集踏まえ)。 | 会話(侍女・大夫の本音)と地の文(匂宮の心情)を混ぜずに根拠化する。 |
指示語・呼び方(最小整理)
- 宮:男宮(匂宮)。地の文の尊敬語がかかる中心人物。
- かの人:男君(薫大将)。京にいて、女君を山里に住まわせている側。
- 女君:浮舟。返事が「絶え絶え」になり、周囲(侍女たち)も匂宮を止めようとする。
敬語・助動詞で減点しないポイント(即答)
- 思す/思しためる/おはしましぬ:匂宮を高める尊敬語。主語を匂宮に固定しやすい合図。
- 思ひ定まりぬるなめり:完了「ぬ」+推定「めり」=「(女君は)決めてしまったようだ」という匂宮の推測。
- 聞こえさす・言はせたり等:目下(侍女側など)の言動・取り計らい。会話の主体を取り違えない。
設問対応の見取り図(短く)
- 心情:「口惜しくねたく」→比喩→「例の、いみじく思し立ちて」の順で、感情の高まりを説明する。
- 対立・力関係:薫大将(かの人)側に傾く不安が、匂宮の行動を押し出す。
- 比喩(古今集):「むなしき空に満ちぬる」は“恋の行き場のなさ”を一言で言い換えてから心情に接続する。
このあと本文で、原文→現代語訳→語注→語句文法→読解ポイントの順に確認できます。
目次
『源氏物語』「浮舟」【本文】
古文本文(2022國學院大学A日程出題部分)
宮、「かくのみ、なほうけひくけしきもなくて、返り事さへ絶え絶えになるは、
かの人の、あるべきさまに言ひしたためて、すこし心やすかるべき方に思ひ定まりぬるなめり、
ことわりと思すものから、いと口惜しくねたく、「さりとも、我をばあはれと思ひたりしものを、
あひ見ぬとだえに、人びとの言ひ知らする方に寄るならむかしなど眺めたまふに、
行く方しらず、むなしき空に満ちぬる心地したまへば、例の、いみじく思し立ちておはしましぬ。
葦垣の方を見るに、例ならず、「あれは、誰そ」と言ふ声々、いざとげなり。立ち退きて、
心知りの男を入れたれば、それをさへ問ふ。さきざきのけはひにも似ず。わづらはしくて、
「京よりとみの御文あるなり」と言ふ。右近は徒者の名を呼びて会ひたり。いとわづらはしく、
いとどおぼゆ。「さらに、今宵は不用なり。いみじくかたじけなきこと」と言はせたり。
宮、などかくもて離るらむと思すに、わりなくて、「まづ、時方入りて、侍従に会ひて、
さるべきさまにたばかれ」とて遣はす。かどかどしき人にて、とかく言ひ構へて、訪ねて会ひたり。
「いかなるにかあらむ。かの殿ののたまはすることありとて、宿直にある者どもの、
さかしがりだちたるころにて、いとわりなきなり。御前にも、ものをのみいみじく思しためるは、
かかる御ことのかたじけなきを、思し乱るるにこそ、と心苦しくなむ見たてまつる。
さらに、今宵は。人けしき見はべりなば、なかなかにいと悪しかりなむ。やがて、
さも御心づかひせさせたまひつべからむ夜、ここにも人知れず思ひ構へてなむ、
聞こえさすべかめる」。乳母のいざときことなども語る。大夫、「おはします道のおぼろけならず、
あながちなる御けしきに、あへなく聞こえさせむなむ、たいだいしき。さらば、いざ、たまへ。
ともにくはしく聞こえさせたまへ」といざなふ。「いとわりなからむ」と言ひしろふほどに、
夜もいたく更けゆく。
語注・人物関係メモ
| 語・人物 | 注釈 |
|---|---|
| 宮 | 男宮(匂宮)。 |
| かの人 | 男君(薫大将)。男君は京にいて女君を山里に住まわせている。 |
| 行く方知らず、むなしき空に満ちぬる心地 | 古今集「わが恋はむなしき空にみちぬらし思ひやれども行く方もなし」による表現。 |
| 葦垣 | 女君が住む家の垣根。 |
| いざとげなり | すぐに目を覚ます様子をいう。 |
| 心知りの男 | 男宮の従者。 |
| 京より | 京にいる女君の母から。 |
| 右近・侍従 | 女君の侍女。 |
| 御心づかひせさせたまひつべからむ夜 | (宮の来訪が人目に触れれば)女君が気を遣わざるを得なくなる夜、の意。今夜はそれを避けたいという含み。 |
| 乳母 | 女君の乳母。 |
| 大夫 | 時方のこと。 |
『源氏物語』「浮舟」【現代語訳】
現代語訳
男宮(匂宮)は、「(女君=浮舟が)このようでばかりでやはり聞き入れる様子もなく、返事までも途絶えがちになるのは、
あの男君(薫大将)が都合のいいように言い含めて、それで(女君が)多少とも安心なほうにと決心したのであるようだ。
それも道理である」とお思いにはなるものの、大変残念で悔しく、そうはいっても、(女君は)私を慕ってくれていたのに、
会わない間に、女房たちが説得する方(男君)に心が傾いたのだろう、などともの思いにふけっていらっしゃると、
恋しさが行方も知れず虚空に満ちてしまうような気持になられるので、いつものように、たいへんなご決心をなさって
(女君の元へ)お出かけになった。
語句・文法のポイント
語句のポイント
- かくのみ、なほうけひくけしきもなくて…「かくのみ」=このような状態ばかりで。「うけひくけしき」=承諾する気配。
- あるべきさまに言ひしたためて…「あるべきさま」=そうあるのがふさわしい形・都合のよい形。
- いと口惜しくねたく…「口惜し」=残念だ。「ねたし」=しゃくにさわる。
- 行く方しらず、むなしき空に満ちぬる心地…古今集の歌を踏まえた、恋の行き場のなさを表す比喩表現。
- 例の、いみじく思し立ちて…「例の」=いつものように。「思し立つ」=決心なさる。
- わづらはしくて/いとわづらはしく…「わづらはし」=やっかいだ、面倒だ。
- さらに、今宵は不用なり…「さらに〜打消」=全く〜ない(全く必要ではありません)。
- おはします道のおぼろけならず…「おぼろけならず」=並一通りではない、格別だ。
文法・敬語のポイント
- 思す・思しためる・おはしましぬ…いずれも匂宮を高める尊敬語。
- ぬるなめり(思ひ定まりぬるなめり)…「ぬ」完了+「めり」推定=「…してしまったようだ」。
- なむ/べかめる など…提案・婉曲のニュアンスを作る。
- 敬語の方向…匂宮に対する尊敬と、浮舟側からの謙譲・丁重表現を整理。
- 会話と地の文の切り替え…会話は侍女や大夫の本音、地の文は匂宮の心情描写。
出題のねらい・読解のポイント
浮舟巻における位置づけ
- 浮舟をめぐる薫大将と匂宮の三角関係の一場面であり、匂宮の側の焦り・執着が強く描かれている。
- 薫大将の「あるべきさま」に対し、匂宮は自らの感情を抑えきれず山里へ向かう。→ 理性的な薫と、情熱的な匂宮の対比が浮かび上がる。
國學院大学A日程で問われる力
- 主語の把握…宮/男君/浮舟/侍女たち/大夫時方など、誰の視点・発言かを整理する力。
- 心情の読み取り…「口惜しくねたく」「行く方しらず、むなしき空に満ちぬる心地」などから匂宮の感情を掬い取る力。
- 敬語・古語表現の理解…尊敬・謙譲の方向、和歌的な比喩表現から、人物関係や価値観を読み解く力。
共通テスト古文にも通じる読み方
- まず「誰が・誰に・何をしているのか」を、敬語と文脈から丁寧に追う。
- 和歌的な比喩表現が出てきたら、イメージ+心情をセットで押さえる。
- 会話文と地の文の両方から、人物像・価値観を立体的に把握する。
- 「道理では理解しているのに、感情が納得しない」というズレに注目すると、匂宮の人物像が読みやすい。
復習チェックリスト
内容理解チェック
- [ ] 匂宮が「女君が返事をくれない理由」として何を推測しているか説明できる。
- [ ] 「行く方しらず、むなしき空に満ちぬる心地」が、どんな気持ちのたとえか言える。
- [ ] 宮・男君(薫)・浮舟・侍女たち・大夫時方の関係を図にして整理できる。
- [ ] なぜ侍女や時方が今夜の匂宮来訪を「わりなく」・「たいだいしき」と見るのか説明できる。
語句・文法チェック
- [ ] 「かくのみ」「うけひくけしき」「わづらはしくて」「さらに〜不用なり」などの意味を答えられる。
- [ ] 「思ひ定まりぬるなめり」「聞こえさすべかめる」などを品詞分解して訳せる。
- [ ] 匂宮に対する尊敬語と、浮舟側からの謙譲・丁重表現をいくつか挙げられる。
記述・現代語訳対策チェック
- [ ] この場面を、匂宮の心情の変化に注目して200〜300字で要約してみた。
- [ ] 自分の言葉で、匂宮という人物像(長所・短所)を本文の語句を引用しながら説明できる。
- [ ] 古今集の歌との関係を踏まえて、「むなしき空」というイメージの意味を説明できる。
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このページでは、2022年國學院大学A日程の『源氏物語』「浮舟」本文と訳・語句を整理しました。
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