増鏡・とはずがたり現代語訳全文|語句の意味と比較ポイント解説
2022年・第3問
増鏡・とはずがたり現代語訳|2022年共通テスト古文の問4比較・語句解説
2022年共通テスト国語第3問で出題された『増鏡』と『とはずがたり』について、出題箇所の原文と現代語訳、重要語句、品詞分解、敬語、和歌、設問ごとの本文根拠、二つの文章の比較をまとめています。
このページに掲載しているのは、作品全体ではなく、共通テストで出題された箇所です。品詞分解も出題本文の全語ではなく、「まどろまれ給はず」「知られじな」など、読解や設問判断で重要になる表現を対象としています。
原文と現代語訳には共通の場面番号を付けています。特定の一文を確認したい場合は、同じ場面内の原文と訳文を見比べてください。
先に結論:2022年共通テスト古文は何を比べる問題か
2022年共通テスト古文第3問は、後深草院が前斎宮に心を引かれ、二条を介して近づこうとする出来事を、『増鏡』と『とはずがたり』の二つの文章で比べる問題です。
最初に押さえる違い
『増鏡』は出来事の外側から院の行動をまとめる文章、『とはずがたり』は二条が当事者として体験を語る文章です。問4では、語り手、二条の関与、前斎宮の反応、院への評価を比べます。
探している内容から読む
長い解説ページなので、まずは目的に合わせて確認してください。現代語訳だけを見たい場合は、下のボタンから本文へ進めます。
学校の復習や定期テスト対策として使う場合は、本文と現代語訳を確認した後、語句、敬語、和歌、比較読解の順に見ると整理しやすくなります。
読み終えた後に不安が残ったら
このページでは、2022年共通テスト古文の出題本文、現代語訳、語句、品詞分解、敬語、問4比較をまとめて確認できます。必要な箇所を読んだ後に、まだ不安が残る場合は、困っている内容に近いページへ進んでください。
まず本文の確認を進めたい場合は、このまま原文・現代語訳、重要語句、問4比較へ進んでください。
共通テスト2022国語 第3問の概要
| 試験 | 大学入学共通テスト 2022年(令和4年度)国語 |
|---|---|
| 大問 | 第3問 古文(古典①) |
| 出典 | 文章Ⅰ『増鏡』、文章Ⅱ『とはずがたり』 |
| 掲載範囲 | 二作品の全編ではなく、共通テストで出題された箇所 |
| 品詞分解 | 出題本文の全語ではなく、読解上重要な表現 |
| 場面 | 後深草院が前斎宮に心を引かれ、二条を介して近づこうとする場面 |
二つの文章は同じ出来事を扱っていますが、出来事を語る人物と院との距離が異なります。語句や敬語だけでなく、誰が出来事を語り、どの言葉に院や前斎宮への評価が表れているかを確認することが重要です。
『増鏡』と『とはずがたり』を比べる前に
この問題では、作品そのものを詳しく覚えるよりも、二つの文章が同じ出来事をどの立場から語っているかを押さえることが重要です。
『増鏡』
歴史物語として、出来事を外側から整理して語ります。本文では、院の行動をまとめながら、語り手が院の性質を評価する表現も出てきます。
『とはずがたり』
二条自身の回想として読むことができます。本文では、院との会話、使者としての行動、前斎宮の反応、二条の気持ちが具体的に語られます。
同じ出来事でも、記録する立場や語り手が違うと、詳しく描かれる内容や評価の出方が変わります。
比較読解の要点
ここでは、問4に入る前の全体像を確認します。比較読解では、同じ出来事を扱う二つの文章について、語り手、描写の詳しさ、評価の出方を分けて読むことが大切です。
語り手
『増鏡』は外側の語り手、『とはずがたり』は二条本人の語りとして読みます。
描写の詳しさ
『増鏡』は流れを簡潔にまとめ、『とはずがたり』は会話や二条の行動を詳しく語ります。
評価の出方
『増鏡』では語り手の評価が直接出ます。『とはずがたり』では二条の体験や受け止めを通して伝わります。
登場人物と関係を確認
原文を読む前に、後深草院、前斎宮、二条の関係を確認します。二条は、『増鏡』では院と前斎宮をつなぐ人物として説明され、『とはずがたり』では出来事を語る本人として登場します。
| 人物 | 立場・関係 | 本文中の役割 |
|---|---|---|
| 後深草院 | 前斎宮の異母兄にあたる人物 | 前斎宮の姿を見て心を引かれ、二条に手紙の取り次ぎや部屋への案内を求めます。 |
| 前斎宮 | 院の異母妹にあたる人物 | 院から手紙を受け取りますが、明確な返事を示さず、そのまま休みます。 |
| 二条 | 院に仕え、前斎宮とも親しく出入りできる人物 | 院と前斎宮の間で、使者と案内役を務めます。『とはずがたり』では語り手本人です。 |
後深草院
前斎宮に心を引かれる
二条
手紙を届け、院を案内する
前斎宮
手紙を受け取るが明確に返答しない
二条が取り次ぎ役になる理由
『増鏡』では、二条にあたる人物が院の身近に仕える大納言の娘であり、前斎宮とも縁があって親しく出入りしていたと説明されています。そのため、院は二条を通じて前斎宮へ思いを伝えようとします。
出来事の流れ
先に出来事の順序を確認すると、原文中で主語が省略されても、院・前斎宮・二条の行動を追いやすくなります。
- 院が前斎宮の姿を見て心を引かれる。
- 院が自室へ戻っても眠れず、思い悩む。
- 院が二条に手紙の取り次ぎを頼む。
- 二条が院の手紙と和歌を前斎宮へ届ける。
- 前斎宮は顔を赤らめるが、明確な返事をしない。
- 院が二条に、前斎宮の部屋へ案内するよう求める。
- 院が前斎宮の部屋へ忍んで入る。
『増鏡』は院の心情と行動を比較的簡潔にまとめ、『とはずがたり』は二条の会話、使者としての行動、前斎宮の反応を詳しく記しています。
原文を読む前に押さえる三つの前提
1. 人物関係
後深草院は前斎宮に心を引かれ、二条を通じて近づこうとします。二条は院と前斎宮の間に立つ人物です。
2. 院の行動
院はすぐに前斎宮へ直接向かうのではなく、まず二条に手紙の取り次ぎや案内を求めます。
3. 語り手の違い
『増鏡』は外側の語り手、『とはずがたり』は二条本人の語りとして読みます。敬語や心情表現も、この違いを意識して確認します。
主語が省略されている箇所では、直前の人物、敬語の向き、会話の相手を合わせて判断してください。
この問題でつまずきやすいところ
本文の内容を大まかに追えていても、語り手の違い、敬語の向き、和歌の詠み手を取り違えると、選択肢判断がしにくくなります。
| つまずきやすい点 | 誤りやすい読み | 本文に合う読み |
|---|---|---|
| 二つの文章の関係 | どちらも同じ立場から出来事を説明していると読む。 | 『増鏡』は外側の語り手、『とはずがたり』は二条本人の語りとして読む。 |
| 敬語による主語判断 | 「給ふ」があるので、すべて院の動作だと判断する。 | 尊敬語と謙譲語の向きを分け、誰が誰に対して動作しているかを確認する。 |
| 二条の立場 | 二条を出来事の傍観者として読む。 | 二条は使者として手紙を届け、院を前斎宮の部屋へ案内する当事者である。 |
| 和歌の内容 | 将来の恋の成就や前斎宮側の思いを詠んだ歌と読む。 | 後深草院が、今見た前斎宮の面影がそのまま心に残ることを詠んでいる。 |
| 古語の意味 | 「をかし」「すさまじ」「やがて」を現代語の感覚で読む。 | 文脈に合わせて、「興味深い」「物寂しい」「そのまま」などと読む。 |
重要語句の意味を先に確認

ここでは、検索されやすく、現代語訳の確認にも直結する語句を先にまとめます。文法的な分解は、次の「重要表現の品詞分解」で確認できます。
| 語句 | 本文中の意味 | 確認点 |
|---|---|---|
| ねびととのひたる御さま | すっかり大人びて端正なご容姿 | 前斎宮の様子。「ねび」は「眠る」という意味ではありません。 |
| おほかたなるやうに | 通りいっぺんに、当たり障りなく | 形式的な挨拶と、その中に忍ばせた手紙が対比されています。 |
| まどろまれ給はず | うとうとすることがおできにならない | 「れ」は、院が眠ることができない文脈から可能と判断します。 |
重要表現の品詞分解
ここでは、助動詞の識別や敬語判断に関係しやすい表現を文法的に分けます。意味だけを知りたい場合は前の「重要語句」、試験前にまとめて確認したい場合は後の「重要表現まとめ」を使ってください。
1. 「まどろまれ給はず」の品詞分解
- まどろま
-
元の語・品詞:まどろむ/マ行四段活用の動詞
活用形:未然形
意味:うとうとし
- れ
-
元の語・品詞:る/助動詞
活用形:連用形
意味:でき
- 給は
-
元の語・品詞:給ふ/ハ行四段活用の補助動詞
活用形:未然形
意味:お~になる
- ず
-
元の語・品詞:ず/打消の助動詞
活用形:終止形
意味:~ない
識別理由
院は前斎宮の面影を思い続け、休もうとしても眠ることができない状態です。そのため、「れ」は可能と判断します。「給ふ」は動作主である院への尊敬です。
2. 「やみなむ」の品詞分解
- やみ
-
元の語・品詞:止む/マ行四段活用の動詞
活用形:連用形
意味:終わり
- な
-
元の語・品詞:ぬ/完了・強意の助動詞
活用形:未然形
意味:~てしまう
- む
-
元の語・品詞:む/助動詞
活用形:連体形
意味:~ような
識別理由
後ろに係助詞「は」が続き、本文では「終わってしまうようなのは」というまとまりで捉えます。「なむ」を一語の係助詞とはしません。
3. 「いかがたばかりけむ」の品詞分解
- いかが
-
品詞:副詞
意味:どのように
- たばかり
-
元の語・品詞:たばかる/ラ行四段活用の動詞
活用形:連用形
意味:取り計らっ
- けむ
-
品詞:過去推量の助動詞
活用形:連体形
意味:~たのであろう
識別理由
語り手が過去の取り計らい方を直接確認できず、推測しています。疑問を表す「いかが」を受けるため、「けむ」は連体形です。
4. 「知られじな」の品詞分解
- 知ら
-
元の語・品詞:知る/ラ行四段活用の動詞
活用形:未然形
意味:知り
- れ
-
元の語・品詞:る/助動詞
活用形:未然形
意味:知られ
- じ
-
品詞:打消推量の助動詞
活用形:終止形
意味:~ないだろう
- な
-
品詞:終助詞
意味:詠嘆や念押しを添える
このページでの解釈
このページでは、「この思いがあなたには知られないだろうなあ」という関係で捉え、歌意では「あなたはご存じないでしょうね」と示します。
「れ」の意味区分は教材や注釈によって説明が異なる場合があります。授業や試験で指定された資料がある場合は、その説明を優先してください。
5. 「見つる」の品詞分解
- 見
-
元の語・品詞:見る/マ行上一段活用の動詞
活用形:連用形
意味:見
- つる
-
元の語・品詞:つ/完了の助動詞
活用形:連体形
意味:~た
「つる」は後ろの名詞「面影」を修飾しています。全体では「たった今見た面影」です。
6. 「ねびととのひたる」の品詞分解
- ねびととのひ
-
元の語・品詞:ねびととのふ/ハ行四段活用の複合動詞
活用形:連用形
意味:成長して美しく端正になり
- たる
-
元の語・品詞:たり/完了・存続の助動詞
活用形:連体形
意味:~ている
後ろの「御さま」を修飾し、前斎宮が十分に成長して端正になった状態を表します。「ねび」は眠ることを表す語ではありません。
7. 「おほかたなるやうに」の品詞分解
- おほかたなる
-
元の語・品詞:おほかたなり/ナリ活用の形容動詞
活用形:連体形
意味:通りいっぺんな、形式的な
- やう
-
品詞:名詞
意味:様子
- に
-
品詞:格助詞
意味:~という様子で
表向きには形式的な挨拶をしながら、その中に院の本心を記した手紙を忍ばせています。全体では「ただ通りいっぺんの挨拶をするように」と訳します。
助動詞を本文の中で見分けたい場合
このページの「まどろまれ給はず」「やみなむ」「知られじな」で止まった場合は、助動詞の接続や活用を表だけでなく、本文の流れに合わせて確認することが大切です。
文章Ⅰ『増鏡』原文・現代語訳
原文と現代語訳を四つの場面に分けています。同じ番号の原文と訳文が対応しています。
場面1 院が自室へ戻っても眠れない
原文
院も我が御方にかへりて、うちやすませ給へれど、まどろまれ給はず。ありつる御面影、心にかかりて覚え給ふぞいとわりなき。「さしはへて聞こえむも、人聞きよろしかるまじ。いかがはせん」と思し乱る。
現代語訳
院もご自分の部屋へ戻り、少しお休みになるけれど、うとうとすることもおできにならない。先ほど見た前斎宮のお姿が心にかかって思い出されるのは、どうしようもないことである。「わざわざ思いを申し上げるのも、世間体がよくないだろう。どうしたものか」と思い悩みなさる。
場面2 院がためらいながらも接近を望む
原文
御はらからと言へど、年月よそにて生ひ立ち給へれば、うとうとしく習ひ給へるままに、慎ましき御思ひも薄くやありけん、なほひたぶるにいぶせくてやみなむは、あかず口惜しと思す。けしからぬ御本性なりや。
現代語訳
きょうだいとはいっても、長年別々の場所で成長なさったので、疎遠な関係に慣れていらっしゃったために、前斎宮へ近づくことを遠慮するお気持ちも薄かったのであろうか。やはり、このまま胸の内を晴らせずに終わるのは、満足できず残念だとお思いになる。なんともけしからぬご性質であることよ。
場面3 院が二条に取り次ぎを頼む
原文
なにがしの大納言の娘、御身近く召し使ふ人、かの斎宮にも、さるべきゆかりありて睦ましく参りなるるを召し寄せて、「なれなれしきまでは思ひ寄らず。ただ少しけ近き程にて、思ふ心の片端を聞こえむ。かく折よき事もいと難かるべし」とせちにまめだちてのたまへば、
現代語訳
ある大納言の娘で、院が身近に召し使っている人がおり、その人は前斎宮ともしかるべき縁があって親しく出入りしていた。院はその女性をお呼び寄せになり、「馴れ馴れしい間柄にまでなりたいとは思っていない。ただ、もう少し近いところで、私の思いの一端だけでも申し上げたい。このような都合のよい機会も、なかなかあるまい」と、しきりに誠実そうな態度でおっしゃるので、
場面4 院が前斎宮へ近づく
原文
いかがたばかりけむ、夢うつつともなく近付き聞こえ給へれば、いと心憂しと思せど、あえかに消え惑ひなどはし給はず。
現代語訳
その女性がどのように取り計らったのであろうか、院は夢とも現実ともつかないような状態で前斎宮へ近づき申し上げなさった。前斎宮は大変つらいとお思いになるけれど、弱々しく取り乱すようなことはなさらない。
『増鏡』の特徴:院の心情から接近までを簡潔にまとめながら、「けしからぬ御本性なりや」と語り手が院を直接評価します。
文章Ⅱ『とはずがたり』原文・現代語訳
『とはずがたり』では、語り手である二条が実際に使者や案内役を務めています。
場面1 前斎宮の美しさと院への懸念
原文
斎宮は二十に余り給ふ。ねびととのひたる御さま、神も名残を慕ひ給ひけるもことわりに、花といはば、桜にたとへても、よそ目はいかがとあやまたれ、霞の袖を重ぬるひまもいかにせましと思ひぬべき御有様なれば、ましてくまなき御心の内は、いつしかいかなる御物思ひの種にかと、よそも御心苦しくぞおぼえさせ給ひし。
現代語訳
前斎宮は二十歳を過ぎていらっしゃる。すっかり大人びて端正になったご容姿は、伊勢の神々も別れを惜しんでお慕いになったのももっともだと思われるほどである。花にたとえるなら桜といっても、遠くから見れば本物の桜と見間違うのではないかと思われる。桜に霞が重なるように、そのお顔を袖でお隠しになる一瞬の間さえ惜しまれるほどのご様子なので、まして好色な院のお心の内では、早くもどのような物思いの種になるのだろうかと、院の心の動きをそばから見ている私にも、前斎宮のことがお気の毒に思われた。
場面2 前斎宮との対面後、院が二条へ相談する
原文
御物語ありて、神路山の御物語などたえだえ聞え給ひて、「今宵はいたう更け侍りぬ。のどかに明日は、嵐の山のかぶろなる梢どもも御覧じて御帰りあれ」など申させ給ひて、わが御方へ入らせ給ひて、いつしか「いかがすべき、いかがすべき」と仰せあり。
現代語訳
お話があり、前斎宮が神路山のことなどを途切れ途切れにお話し申し上げなさる。院は、「今夜はずいぶん夜も更けました。明日はゆっくりと、嵐山の葉の落ちた梢などもご覧になってからお帰りください」などとおっしゃる。院はご自分のお部屋へお入りになると、早くも「どうしたらよいだろう、どうしたらよいだろう」とおっしゃる。
場面3 二条が使者を命じられる
原文
思ひつることよとをかしくてあれば、「幼くより参りししるしに、このこと申しかなへたらん、まめやかに志ありと思はむ」など仰せありて、やがて御使に参る。
現代語訳
私が、予想していたとおりのことだと興味深く思っていると、院は「幼いころからお前が仕えてきた証しとして、このことを申し伝えて私の願いをかなえてくれたなら、本当に私への志がある者だと思おう」などとおっしゃる。そこで、すぐに私が使者として参上する。
場面4 形式的な挨拶に手紙を忍ばせる
原文
ただおほかたなるやうに、「御対面うれしく、御旅寝すさまじくや」などにて、忍びつつ文あり。氷襲の薄様にや、
知られじな今しも見つる面影のやがて心にかかりけりとは
現代語訳
ただ通りいっぺんの挨拶をするように、「お目にかかれてうれしく存じます。慣れない旅先でのお休みは、物寂しくありませんでしたか」などと申し上げ、その中にひそかに手紙がある。氷襲の重ね色を思わせる薄様紙であったろうか。
ご存じないでしょうね。たった今お目にかかったあなたのお姿が、そのまま私の心に深くかかり続けているとは。
場面5 前斎宮が手紙に明確な返答をしない
原文
更けぬれば、御前なる人も皆寄り臥したる。御主も小几帳ひき寄せて、御とのごもりたるなりけり。近く参りて、事のやう奏すれば、御顔うちあかめて、いと物ものたまはず。文も、見るとしもなくて、うち置き給ひぬ。
「何とか申すべき」と申せば、「思ひ寄らぬ御言の葉は、何と申すべき方もなくて」とばかりにて、また寝給ひぬるも心やましければ、帰り参りてこのよしを申す。
現代語訳
夜が更けたので、前斎宮の御前に仕えている女房たちも皆、寄りかかって横になっている。前斎宮も小几帳を引き寄せて、お休みになっているのだった。私はそば近くに参って事情を申し上げると、前斎宮はお顔を赤らめて、ほとんど何もおっしゃらない。手紙も、十分に読むという様子ではなく、そのまま置きなさった。
私が「何とご返事申し上げましょうか」と申し上げると、「思いも寄らないお言葉には、何と申し上げればよいのか言いようもなくて」とだけおっしゃり、またお休みになった。返事が得られず、私も気持ちが落ち着かないので、院のもとへ帰ってこの様子を申し上げる。
場面6 院が二条に部屋への案内を求める
原文
「ただ寝給ふらむところへ、案内せよ、案内せよ」と責めさせ給ふもむつかしければ、御供に参らんことはやすくこそ、しるべして参る。甘の御衣などはことごとしければ、御大口ばかりにて、忍びつつ入らせ給ふ。
現代語訳
院が「かまわないから、お休みになっているところへ私を案内しろ、案内しろ」とせき立てなさるのも煩わしいので、お供すること自体は難しいことではないと思い、私が道案内をして参る。院は、上皇の平服である甘の御衣を着ることさえ大げさになるので、大口袴だけのお姿で、こっそりとお入りになる。
語句:「甘の御衣」は「かんのおんぞ」と読み、上皇が平服として着用する直衣を指します。
場面7 院が前斎宮の部屋へ入る
原文
まづ先に参りて、御障子をやをら開けたれば、ありつるままにて御とのごもりたる。御前なる人も寝入りぬるにや、音する人もなく、小さらかに這ひ入らせ給ひぬる後、いかなる御ことどもかありけむ。
現代語訳
まず私が先に参り、お襖をそっと開けると、前斎宮は先ほどのままのご様子でお休みになっている。御前の女房たちも寝入ってしまったのだろうか、物音を立てる人もいない。院は身を小さくして、静かに這うようにしてお入りになった。その後、どのようなことがあったのであろうか。
『とはずがたり』の特徴:当事者である二条が、院との会話、手紙の取り次ぎ、前斎宮の反応、自分の感情まで具体的に語ります。
訳だけ見た人が次に確認すべきこと
現代語訳で話の流れを確認できたら、次は「どの表現が設問判断に関係するか」を見直します。訳を覚えるだけでなく、本文根拠に戻れるようにすることが大切です。
学校の復習で使う場合
授業や定期テストでこの本文を扱う場合は、現代語訳を確認した後に、語句、助動詞、敬語、本文根拠の順に戻ると整理しやすくなります。訳を覚えるだけでなく、「どの語句や敬語からその訳になるのか」を説明できるか確認してください。
『増鏡』だけ・『とはずがたり』だけ確認する場合の要点
作品名だけで検索している場合でも、共通テストの復習では二つの文章を並べて読むことが大切です。片方だけを先に確認する場合は、次の点を押さえてください。
『増鏡』だけ確認する場合
院が前斎宮に心を引かれ、二条に取り次ぎを頼み、前斎宮へ近づくまでが簡潔に語られます。特に、院のためらいと、それでも接近を望む心情を押さえることが重要です。
また、「けしからぬ御本性なりや」は、語り手が院の行動や性質を評価している表現です。
『とはずがたり』だけ確認する場合
二条が、院の相談を受け、前斎宮へ手紙を届け、さらに院を前斎宮の部屋へ案内する流れが詳しく語られます。
前斎宮は手紙に明確な返事をせず、二条は院に急かされながら行動しています。二条が単なる傍観者ではない点を押さえましょう。
和歌「知られじな今しも見つる面影の…」の文法と意味
知られじな今しも見つる面影のやがて心にかかりけりとは
| 詠み手 | 後深草院 |
|---|---|
| 受け手 | 前斎宮 |
| 歌意 | たった今見た前斎宮の姿が、そのまま院の心から離れないことを伝えています。 |
「知られじな」
「知ら」+助動詞「る」の未然形「れ」+打消推量の助動詞「じ」+終助詞「な」です。このページでは、「この思いがあなたには知られないだろうなあ」という関係で捉えます。
歌意では、「あなたはご存じないでしょうね」と示すと、全体の意味がつかみやすくなります。
和歌の逐語訳
| 表現 | 訳 | 意味のつかみ方 |
|---|---|---|
| 知られじな | 知られないでしょうね | 院の思いが前斎宮には伝わっていないだろう、という意味で捉えます。 |
| 今しも見つる面影 | たった今見たお姿 | 「見つる」は「見た」と訳し、直前に見た前斎宮の姿を指します。 |
| やがて心にかかりけり | そのまま心にかかり続けている | 「やがて」は現代語の「やがて」ではなく、「そのまま」と読むのが自然です。 |
この歌は、前斎宮の返歌ではありません。後深草院が、前斎宮の姿を見た直後の心の動きを詠んだ歌として確認してください。
重要表現まとめ
最後に、本文読解や設問判断で使いやすい表現をまとめます。意味だけでなく、誰の心情や行動を表すかを合わせて確認してください。
| 表現 | 本文中の意味 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| まどろまれ給はず | うとうとすることがおできにならない | 「れ」は可能。「給ふ」は院への尊敬です。 |
| ねびととのひたる | 大人びて美しく端正になっている | 前斎宮の容姿を表します。「眠る」という意味ではありません。 |
| おほかたなるやうに | 通りいっぺんの挨拶をするように | 表向きの挨拶と、手紙を忍ばせる行動の対比を見ます。 |
| やみなむ | 終わってしまうような | 「やみ/な/む」と分けます。「なむ」を一語の係助詞としない点に注意します。 |
| 知られじな | 知られないでしょうね | 院の和歌の冒頭です。前斎宮側の返歌ではありません。 |
| けしからぬ御本性なりや | なんとも不都合なご性質であることよ | 『増鏡』の語り手による院への評価です。院本人の発言ではありません。 |
| 思ひつることよとをかしくて | 思っていたとおりだと興味深く思って | 『とはずがたり』で、二条が院の心の動きを受け止める表現です。 |
設問で狙われやすい本文表現の意味と解釈
ここでは、語句の意味だけでなく、本文中でどの人物の心情や行動を表しているかを確認します。選択肢判断で本文根拠を探すときに使ってください。
| 表現 | 意味 | 読解上の確認点 |
|---|---|---|
| いとわりなき | どうしようもない、苦しい | 院が前斎宮の面影を忘れられず、心を乱している状態です。 |
| いぶせくてやみなむ | 胸の内を晴らせずに終わってしまう | 院がこのまま終わることを残念に思っている部分です。 |
| せちにまめだちて | しきりに誠実そうに | 院が二条に取り次ぎを頼む場面で、強く願っている様子を表します。 |
| 心憂し | つらい、情けない | 『増鏡』では、前斎宮が院の接近をつらく思う心情として読めます。 |
| 心やましければ | 気がかりで落ち着かないので | 『とはずがたり』で、返事が得られない二条の落ち着かなさを表します。 |
敬語から主語を判断する
この本文では、院、前斎宮、二条が関わるため、主語が省略されると誰の動作か分かりにくくなります。古文の敬語で主語を判断するときは、動作主だけでなく、動作が誰に向かっているかも合わせて確認します。
敬語判断の基本
- 尊敬語は、動作をする人を高めます。
- 謙譲語は、動作の向かう相手を高めます。
- 「給ふ」があるだけで、すべて院の動作と決めないようにします。
- 会話の相手、直前の人物、敬語の種類を合わせて主語を判断します。
敬語判断で確認したい具体例
「給ふ」があるからすべて院の動作、と決めるのではなく、誰の動作に付いている敬語かを本文に戻って確認します。
| 本文表現 | 敬語の向き | 読み方 |
|---|---|---|
| まどろまれ給はず | 院への尊敬 | 眠ることができないのは院です。前斎宮の面影が心に残っています。 |
| 御顔うちあかめて、いと物ものたまはず | 前斎宮への尊敬 | 顔を赤らめ、ほとんど何もおっしゃらないのは前斎宮です。 |
| 事のやう奏すれば | 前斎宮へ申し上げる謙譲 | 二条が前斎宮に事情を申し上げています。 |
| 近付き聞こえ給へれば | 前斎宮への謙譲と院への尊敬 | 院が前斎宮に近づき申し上げなさる、という読みになります。 |
敬語で主語を判断するときは、尊敬語だけでなく、謙譲語の向かう相手も確認してください。特に「聞こゆ」「申す」「奏す」は、誰が誰に申し上げているのかを本文の流れに戻って考えます。
主語判断で毎回迷う場合
この問題では、「給ふ」があるかどうかだけでなく、尊敬語と謙譲語の向き、会話の相手、直前の人物を合わせて主語を判断します。敬語の表を見ても本文中で使えない場合は、短い単元補強で読み方を整理する方法もあります。
2022年共通テストの問番号別に本文根拠を確認
ここでは、設問を解き直すときに戻りたい本文表現を整理します。正解番号そのものよりも、選択肢を判断するための本文根拠を確認してください。
問1 重要語句の意味
「まどろまれ給はず」「ねびととのひたる」「おほかたなるやうに」などは、現代語の感覚で読まず、本文の状況に合わせて訳す必要があります。
- 「まどろまれ給はず」は、院が眠ることができない状態です。
- 「ねびととのひたる」は、前斎宮が大人びて端正な様子です。
- 「おほかたなるやうに」は、形式的な挨拶をするようにという意味です。
問2 文法・敬語の判断
助動詞や敬語は、語形だけでなく、本文の流れと合わせて確認します。「れ」「なむ」「けむ」などは、接続と意味の両方を見て判断します。
- 「まどろまれ給はず」の「れ」は可能と読む。
- 「やみなむ」は「やみ/な/む」と分ける。
- 「いかがたばかりけむ」は、語り手の推測を含む。
問3 和歌と心情の確認
「知られじな今しも見つる面影の…」は、後深草院の歌です。前斎宮の返歌ではなく、院が前斎宮の姿を見た直後の心情を詠んでいます。
問4 文章Ⅰ・文章Ⅱの比較
問4では、『増鏡』と『とはずがたり』の語り手の違い、二条の関与、前斎宮の反応、院への評価を比べます。詳しくは次の比較表で確認してください。
問4の比較で確認する本文根拠
問4だけを確認したい人は、この表と次の注意点を見ると、比較軸を確認できます。二つの文章が同じ出来事を扱っていても、語り手の立場や描写の詳しさが違う点を本文根拠に戻って見ていきます。
| 比較する観点 | 『増鏡』 | 『とはずがたり』 |
|---|---|---|
| 語り手の立場 | 出来事の外側から、院の心情と行動を整理して語る。 | 二条が当事者として、自分の行動や感じ方を含めて語る。 |
| 院への評価 | 「けしからぬ御本性なりや」と、語り手の評価が直接示される。 | 院の言動を具体的に示し、二条の受け止めを通して院の様子が伝わる。 |
| 二条の関与 | 院と前斎宮をつなぐ人物として説明される。 | 使者として手紙を届け、院を前斎宮の部屋へ案内する様子が詳しい。 |
| 前斎宮の反応 | つらく思うが、弱々しく取り乱すことはしないとまとめられる。 | 顔を赤らめ、明確に返事をせず、手紙も十分に読む様子ではないと描かれる。 |
| 描写の詳しさ | 出来事の流れを比較的簡潔にまとめる。 | 会話、手紙、部屋へ入る動きなど、場面の細部が具体的に語られる。 |
問4の比較読解を演習で練習したい場合
この問題で迷いやすいのは、訳そのものよりも、二つの文章のどちらに書かれている内容か、本文にない説明が選択肢で足されていないかを見分ける部分です。比較読解や選択肢判断を続けて練習したい場合は、共通テスト形式の読解対策につなげて確認できます。
問4で取り違えやすい選択肢の特徴
比較問題では、本文に書かれている内容と、選択肢で足されている内容を分けて確認します。次のような説明は、本文根拠と合うかを慎重に見ます。
| 選択肢で出やすいずれ | 本文に合う確認 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 前斎宮が院に明確な返事をした、または積極的に受け入れたとする。 | 『とはずがたり』では、前斎宮は顔を赤らめ、ほとんど何も言わず、手紙も十分に読む様子ではありません。 | 本文にない積極的な心情を足していないか確認します。 |
| 「けしからぬ御本性なりや」を二条の発言のように扱う。 | この表現は『増鏡』の語り手による地の文の評価です。 | 発言と地の文、語り手の評価を分けて読みます。 |
| 二条が院を案内する様子を『増鏡』にも詳しく書かれているように扱う。 | 二条が先に障子を開け、院を案内する具体的な描写は『とはずがたり』にあります。 | 片方にしかない描写を、両方にある内容として読まないようにします。 |
| 和歌を前斎宮側の返歌として読む。 | 「知られじな今しも見つる面影の…」は院の和歌です。 | 詠み手、受け手、歌の内容を取り違えないようにします。 |
問4を解くときの確認の流れ
- 選択肢が『増鏡』について述べているのか、『とはずがたり』について述べているのかを確認する。
- 語り手の評価なのか、人物の発言なのかを分ける。
- 二条の行動や感情が、どちらの文章に書かれているかを確認する。
- 前斎宮の反応を、本文にない内容まで広げて読んでいないか見直す。
復習チェックリスト
この問題では、古語の意味や助動詞だけでなく、複数の文章を比べて読む力が問われています。読み終えたら、次の内容を自分で説明できるか確認してください。
- 『増鏡』と『とはずがたり』の語り手の違いを説明できる。
- 後深草院、前斎宮、二条の関係を説明できる。
- 「まどろまれ給はず」の品詞分解と意味を説明できる。
- 「ねびととのひたる」「おほかたなるやうに」の意味を本文に合わせて訳せる。
- 和歌の詠み手と内容を説明できる。
- 敬語から主語を判断する流れを説明できる。
- 問4の選択肢で、本文にある内容とない内容を分けられる。
- 発言、地の文、語り手の評価、人物の反応を分けて読める。
上の項目で不安なものがある場合は、現代語訳だけで終わらず、重要語句、敬語、問4比較のセクションに戻って確認してください。
2022年共通テスト古文のよくある質問
このページは『増鏡』と『とはずがたり』の全文訳ですか。
作品全体の全文訳ではありません。2022年共通テスト国語第3問で出題された箇所を中心に、原文、現代語訳、語句、敬語、比較読解を整理しています。
2022年共通テスト古文は、現代語訳だけ覚えれば解けますか。
現代語訳だけでなく、二つの文章の語り手の違い、院への評価、二条の関与、前斎宮の反応を本文表現に戻って確認する必要があります。特に問4では、片方の文章にしかない描写を見抜くことが重要です。
『増鏡』と『とはずがたり』の一番大きな違いは何ですか。
『増鏡』は出来事を外側からまとめ、語り手の評価が表れます。『とはずがたり』は二条が当事者として、会話、手紙の取り次ぎ、前斎宮の反応、自分の感情を詳しく語ります。
問4で本文に戻るとき、どの表現を見ればよいですか。
『増鏡』では「けしからぬ御本性なりや」、『とはずがたり』では「思ひつることよとをかしくて」「案内せよ、案内せよ」「心やましければ」などを確認すると、語り手や二条の受け止めを整理しやすくなります。
「やみなむ」はどう分けますか。
「やみ/な/む」と分けます。「な」は完了・強意の助動詞「ぬ」の未然形、「む」は助動詞で、本文では「終わってしまうような」と捉えます。「なむ」を一語の係助詞とはしません。
前斎宮は院を受け入れたと読んでよいですか。
本文では、前斎宮が顔を赤らめ、明確な返事をせず、手紙も十分に読む様子ではなかったと示されています。積極的に受け入れたとは断定できません。
「知られじな」の和歌は誰の歌ですか。
後深草院の歌です。前斎宮の返歌ではありません。たった今見た前斎宮の面影が、そのまま心に残っていることを伝えています。
「まどろまれ給はず」の「れ」は何の意味ですか。
このページでは可能として読みます。院が前斎宮の面影を思い続け、うとうとすることもできない文脈だからです。
「ねびととのひたる」はどういう意味ですか。
成長して美しく端正になっている、という意味です。前斎宮の容姿を表す表現で、「眠る」という意味ではありません。
「けしからぬ御本性なりや」は誰の言葉ですか。
院本人の発言ではなく、『増鏡』の語り手による評価です。院の行動や性質を外側から見て評している表現です。
共通テスト古文の復習では、どこを優先すればよいですか。
まず現代語訳で場面を確認し、次に重要語句、助動詞、敬語、問4比較の順に復習すると整理しやすくなります。訳だけで終わらず、本文根拠に戻る練習をしてください。


