『増鏡』『とはずがたり』現代語訳|共通テスト2022古文本文と語句の整理
2022年・第3問
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2022年(令和4年度)大学入学共通テスト国語・第3問の古文では、
文章Ⅰ『増鏡』と文章Ⅱ『とはずがたり』が出題されました。どちらも、後深草院(本文中では「院」)が異母妹である前斎宮(本文中では「斎宮」)に恋慕する場面を描いた文章です。
このページでできること
- 本試験で出題された本文と現代語訳
- 語句・文法・敬語のポイント
- 出題のねらいと読解のコツ
- 復習用チェックリスト
これらを一つのページにまとめ、共通テスト国語(古文)対策に役立てられるようにしています。
こんな人におすすめ
- 共通テスト古文の頻出パターンを押さえたい受験生
- 授業・個別指導で共通テスト対策をしたい先生
- 本文・訳・解説を一度に確認したい人
| 試験 | 大学入学共通テスト 2022年(令和4年度)国語 |
|---|---|
| 大問 | 第3問 古文(古典①) |
| 出典 | 文章Ⅰ『増鏡』、文章Ⅱ『とはずがたり』 |
| テーマ | 後深草院が前斎宮に恋慕する場面を、歴史物語と日記という 異なるジャンルから描いた組テキスト。 |
二つの文章を読み比べながら、語り手の立場・距離感の違いや、
人物の描かれ方の差を読み取る力が問われました。
受験生向け
- まず古文本文だけを読み、自分で大意をつかんでみる。
- その後、ここにある現代語訳と照合して、読み違えていた箇所を確認する。
- 語句・文法・敬語のポイントを押さえてから、もう一度本文を通読する。
先生向け
- 授業や個別指導で配布するプリントのたたき台として利用。
- 語句・文法の整理や「比較の視点」を板書・スライドに再構成する材料として活用。
- 復習テストや課題プリントの設問を作る際の素材として利用。
目次
【本文1『増鏡』 本文】
院も我が御方にかへりて、うちやすませ給へれど、まどろまれ給はず。ありつる御面影、心にかかりて覚え給ふぞいとわりなき。「さしはへて聞こえむも、人聞きよろしかるまじ。いかがはせん」と思し乱る。御はらからと言へど、年月よそにて生ひ立ち給へれば、うとうとしく習ひ給へるままに、慎ましき御思ひも薄くやありけん、なほひたぶるにいぶせくてやみなむは、あかず口惜しと思す。けしからぬ御本性なりや。
なにがしの大納言の娘、御身近く召し使ふ人、かの斎宮にも、さるべきゆかりありて睦ましく参りなるるを召し寄せて、
「なれなれしきまでは思ひ寄らず。ただ少しけ近き程にて、思ふ心の片端を聞こえむ。かく折よき事もいと難かるべし」
とせちにまめだちてのたまへば、いかがたばかりけむ、夢うつつともなく近付き聞こえ給へれば、いと心憂しと思せど、あえかに消え惑ひなどはし給はず。
【本文1『増鏡』 現代語訳】
院も自室に戻って、少しお休みになるのだが、まどろむこともおできにならない。さきほどの斎宮のお姿が自然と心にかかって思い出されるのは、なんともどうしようもないことである。
「わざわざ(手紙を)申し上げるのも人聞きが良くないだろう。どうしたものか。」とお思い乱れになる。ご兄妹とはいっても、長年別々に成長なさったので、もともと疎遠でいらっしゃったために、(斎宮と通じ合うことに)気が引けるお気持ちも薄かったのであろうか。やはりこのまま悶々として終わってしまうのは、満足できず残念だとお思いになる。「なんともけしからぬご性格であることよ。」
某大納言の娘(後深草院二条)であって、院がお側近くに召し使っている人で、あの斎宮にもしかるべき縁があって親しく出入り申し上げている者をお呼び寄せになって、
「馴れ馴れしい仲にまでなりたいとは思わない。ただ、少し身近なところで、私の思いの一端だけでも申し上げたい。このような都合のよい機会も、なかなかあるまい。」
と、しきりに誠実そうにおっしゃるので、どのように取り計らったのであろうか、斎宮のもとへ院が夢とも現実ともつかないような状態で近づき申し上げなさったので、斎宮は大変つらいとお思いになるけれど、弱々しく取り乱して消え入るような様子にはなられない。
【本文2『とはずがたり』 本文】
斎宮は二十に余り給ふ。ねびととのひたる御さま、神も名残を慕ひ給ひけるもことわりに、花といはば、桜にたとへても、よそ目はいかがとあやまたれ、霞の袖を重ぬるひまもいかにせましと思ひぬべき御有様なれば、ましてくまなき御心の内は、いつしかいかなる御物思ひの種にかと、よそも御心苦しくぞおぼえさせ給ひし。
御物語ありて、神路山の御物語などたえだえ聞え給ひて、
「今宵はいたう更け侍りぬ。のどかに明日は、嵐の山のかぶろなる梢どもも御覧じて御帰りあれ」
など申させ給ひて、わが御方へ入らせ給ひて、いつしか
「いかがすべき、いかがすべき」
と仰せあり。思ひつることよとをかしくてあれば、
「幼くより参りししるしに、このこと申しかなへたらん、まめやかに志ありと思はむ」
など仰せありて、やがて御使に参る。ただおほかたなるやうに、「御対面うれしく、御旅寝すさまじくや」などにて、忍びつつ文あり。氷襲の薄様にや、
「知られじな今しも見つる面影のやがて心にかかりけりとは」
更けぬれば、御前なる人も皆寄り臥したる。御主も小几帳ひき寄せて、御とのごもりたるなりけり。近く参りて、事のやう奏すれば、御顔うちあかめて、いと物ものたまはず。文も、見るとしもなくて、うち置き給ひぬ。
「何とか申すべき」
と申せば、
「思ひ寄らぬ御言の葉は、何と申すべき方もなくて」
とばかりにて、また寝給ひぬるも心やましければ、帰り参りてこのよしを申す。
「ただ寝給ふらむところへ、導け、導け」
と責めさせ給ふもむつかしければ、御供に参らんことはやすくこそ、しるべして参る。甘の御衣などはことごとしければ、御大口ばかりにて、忍びつつ入らせ給ふ。
まづ先に参りて、御障子をやをら開けたれば、ありつるままにて御とのごもりたる。御前なる人も寝入りぬるにや、音する人もなく、小さらかに這ひ入らせ給ひぬる後、いかなる御ことどもかありけむ。
【本文2『とはずがたり』 現代語訳】
斎宮は二十歳を過ぎていらっしゃる。すっかり大人びて整ったご容姿は、伊勢の神々も名残惜しくお慕いになった(退任後もしばらく伊勢にとどまらせた)のももっともなことで、花にたとえるなら桜と言っても、遠目にはどうであろうかと見まちがえてしまうほどである。桜に霞が重なるように、そのお顔を袖でお隠しになる一瞬の間さえ、どうしたものかと思い惑うに違いないと思わせるご様子なので、まして好色な院の心のうちでは、早くもどのような物思いの種になっているのだろうかと、よそ者の私(二条)から見ても、お気の毒なことだと存じられた。
お話があって、斎宮が神路山(伊勢神宮にまつわる山)のことなどを、途切れ途切れにお語り申し上げなさって、
「今宵はずいぶん夜も更けました。明日はゆっくりと、嵐山の葉の落ちた梢などもご覧になって、お帰りください。」
などと院がおっしゃって、ご自分のお部屋へお入りになると、早くも、
「どうしたらよいだろう、どうしたらよいだろう。」
とおっしゃる。思っていた通りのことだなあとおかしく思っていると、
「幼いころからお前が仕えてきた甲斐として、このことを申し伝えて私の思いをかなえてくれたなら、まことに私に志ある者だと思おう。」
などとおっしゃって、すぐに私が使いとして参上することになった。ただ通りいっぺんの挨拶として、「お目にかかれてうれしく存じます。旅寝は興ざめではありませんでしたか。」などと申し上げる、その中に、ひそかにお手紙がある。氷襲の重ね色の薄様であったろうか。
知られじな今しも見つる面影のやがて心にかかりけりとは
(ご存じないでしょうね。たった今お目にかかったあなたのお姿が、そのまま私の心に深くかかり続けているとは。)
夜が更けたので、斎宮の御前に仕えている女房たちも皆、寄りかかって横になっている。斎宮も小几帳を引き寄せて、お休みになっているのだった。私はそば近くに参って、事の次第を申し上げると、斎宮はお顔を赤らめて、ほとんど何もおっしゃらない。お手紙も、別にご覧になるでもなく、そのまま置きなさった。
「何とご返事申し上げましょうか。」
と私が申し上げると、
「思いも寄らないお言葉には、何と申し上げればよいのか言いようもなくて。」
とだけおっしゃって、またお休みになってしまわれたのも、私は心中穏やかでないので、院のもとへ帰参して、このことを申し上げる。
「かまわないから、お休みになっているところへ私を案内しろ、案内しろ。」
とせき立てなさるのも煩わしいので、お供に参ることはたやすく、私が案内役となってご一緒に参上する。院は直衣などは大げさなので、大口袴だけのお姿で、こっそりとお入りになる。
まず私が先に参って、お襖をそっと開けると、さきほどのままのご様子でお休みになっている。御前の女房たちも寝入ってしまったのだろうか、物音を立てる人もなく、院は身を小さくして静かに這うようにしてお入りになった。その後、どのようなことがあったのであろうか。
語句・文法のポイント
共通テストでは、重要単語・語句の意味や、助動詞・敬語の働きを問う設問が頻出です。『増鏡』『とはずがたり』の本文でも、頻出語・頻出表現が多く使われています。
文章Ⅰ『増鏡』の重要語句・表現
- まどろまれ給はず:動詞「まどろむ」+可能の助動詞「る」+尊敬の補助動詞「給ふ」+打消「ず」。「お眠りになることができない」という意味。
- 慎ましき御思ひ:「慎まし」=遠慮深い、控えめな。「妹に恋慕することへのためらいの気持ち」。
- なほひたぶるにいぶせくてやみなむは、あかず口惜し:
「なほ」=やはり、「ひたぶるに」=ひたすら。「いぶせし」=気持ちが晴れない。
「このまま悶々として終わってしまうのは、物足りなく残念だ」と院が思う気持ちを表す。 - せちにまめだちて:
「せちに」=しきりに。「まめだつ」=まじめぶる、誠実ぶる。
下心を隠しつつ、二条に誠実そうな態度で頼んでいるニュアンス。
文章Ⅰ『増鏡』の文法・敬語チェック
- 給ふ:尊敬の補助動詞。主語が「院」のとき、院を高める働きをする。
- 〜てやみなむ:「止む」+完了・強意「ぬ」+推量「む」連体形。「(そうなって)終わってしまうだろう」という、望ましくない完了のイメージを押さえる。
- や〜けむ:係助詞「や」+過去推量「けむ」。「〜だったのだろうか」と語り手の推測・評価を挿入する表現。
文章Ⅱ『とはずがたり』の重要語句・表現
- ねびととのひたる御さま:「ねぶ」=年をとる・成長する。「ととのふ」=整う。十分に大人びて、魅力が整ったご様子。
- 霞の袖を重ぬるひま:桜に霞が重なる様子に、お顔を袖で隠す姿を重ねた比喩。「見たいのに見えない」もどかしさを表す。
- おほかたなるやうに:形容動詞「おほかたなり」=通りいっぺんだ、ありふれている。「ありふれた挨拶で」といった意味。
- 思ひつることよとをかしくて:「思ひつること」=予想していた通りのこと。「をかし」=興味深い、おかしみがある。好色な院の行動を、二条が少し突き飛ばして眺めている視点が出る。
- 責めさせ給ふもむつかしければ:「むつかし」=気が重い、煩わしい。院に急かされることへの二条の本音がにじむ。
文章Ⅱ『とはずがたり』の文法・敬語チェック
- 敬語の方向:「給ふ」「参る」などが、誰を高め、誰がへりくだっているかに注目する。
・院に対する尊敬
・斎宮への敬意
・二条の謙譲表現 - 語り手のコメントを示す表現:
「〜と思ひぬべき」「〜かと」「〜や」など、二条が自分の感じたこと・推測を挿入する部分。
地の文とコメントの切り替わりを意識すると、会話問題・比較問題に強くなる。
出題のねらいと読解のポイント
出典と文章の位置づけ(歴史物語と日記)
- 文章Ⅰ『増鏡』
南北朝期成立の歴史物語。「四鏡」の最後に位置し、政治や院政の様子を物語として描く。語り手は、院の行動をやや批判的・距離を置いた目で眺めている。 - 文章Ⅱ『とはずがたり』
鎌倉中期、後深草院に仕えた二条が、自らの体験を回想した日記文学。語り手は二条本人であり、院と斎宮の間を「取り次ぐ立場」から物語る。
同じ出来事を扱いながら、歴史物語と日記というジャンルの違い、そして語り手の立場の違いが、人物の描かれ方・評価の仕方にも影響している点が、共通テストの重要な着眼点です。
二つの文章を比較するときの視点
- 院の描かれ方の違い
・『増鏡』では、語り手が「けしからぬ御本性なりや」とツッコミを入れつつ描く。
・『とはずがたり』では、二条が皮肉を交えながらも、仕える立場から冷静に観察している。 - 斎宮の描かれ方
容姿の美しさが比喩やイメージを通して強調される一方、本人の言葉は多くない。表情や沈黙から、心情を汲み取る問題になりやすい。 - 語り手の存在感
・歴史物語の語り手は、やや俯瞰的・批評的な視点から院を評価。
・二条は、自分自身が渦中の人物であり、時に自嘲や皮肉を交えながら体験を語る。
共通テストの第3問では、こうした「語り手の視点の違い」「人物の描写の違い」を踏まえて、話し合いの場面や比較の設問に答えさせる構成になっています。
共通テスト古文で求められる読解力
| 読解力の観点 | ポイント |
|---|---|
| 一文ごとの正確な解釈力 | 単語・文法・敬語の基礎知識に基づき、「誰が・誰に・何をしているのか」を取り違えない。 |
| 全体の大意を素早くつかむ力 | 場面設定(いつ・どこで・誰と誰のやりとりか)を早めに押さえ、細部をその上に載せていく。 |
| 複数テキストを比較する力 | 同じ人物・同じ出来事でも、ジャンルや語り手の価値観によって印象が変わることを理解する。 |
| 会話・話し合いを読む力 | 授業後の話し合いの会話文を読み、誰の意見が本文に即しているか、どこがズレているかを判断する力が問われる。 |
復習チェックリスト
内容理解チェック
- [ ] 『増鏡』の場面が「院の自室に戻った後の独白〜行動」であることを、自分の言葉で説明できる。
- [ ] 『とはずがたり』の語り手が二条であり、「院に仕えつつ、斎宮の女房でもある立場」から語っていることを説明できる。
- [ ] 院・斎宮・二条という三者の関係と、それぞれの立場から見たこの出来事の意味を整理して説明できる。
- [ ] 院の行動が「好色で身勝手」として描かれていることを、本文中の表現(例:「けしからぬ御本性なりや」など)を挙げて説明できる。
語句・文法チェック
- [ ] 「つつましき御思ひ」「なほひたぶるにいぶせくてやみなむ」「おほかたなるやうに」など、重要語句の意味を答えられる。
- [ ] 「まどろまれ給はず」などの形について、動詞・助動詞・敬語の組み合わせを品詞分解して説明できる。
- [ ] 「〜や〜けむ」「〜と思ひぬべき」など、語り手の推測・コメントを表す表現を見つけて、自然な現代語に訳せる。
- [ ] 敬語表現の方向(誰を高め、誰がへりくだっているか)を、本文中の具体例に即して確認できる。
本番までの活用法
- [ ] 本文を声に出して読み、リズムや敬語の配置を体で覚えた。
- [ ] 解説を見ずに、自力で本文の要約(200〜300字程度)を書いてみた。
- [ ] 予備校・解説書など他の解説と読み比べて、「語り手の視点」「比喩表現」のコメントを自分なりにまとめた。
- [ ] ここで整理した「複数テキストの比較の視点」を、2021年以前の共通テスト古文や二次試験の過去問にも当てはめて練習してみた。
共通テスト古文を、もう一歩深く対策したい人へ
この記事では、2022年本試験の古文第3問を扱いました。
他の年度の共通テスト古文や、二次試験向けの古文読解もあわせて演習すると、
語り手の視点や複数テキストの読み比べに、より強くなれます。


