浜松中納言物語「中納言の帰参」現代語訳|東大古文2022 本文全文と語句・読解ポイント

東大国語/浜松中納言物語
2022年 第2問(古文)

浜松中納言物語「中納言の帰参」現代語訳|本文全文・品詞分解・読解ポイント【東大2022】

このページでは、2022年東京大学入試・国語第2問(古文)『浜松中納言物語』
入試本文(原文)と現代語訳を掲載し、あわせて語句・文法のポイント
出題のねらい・読解のポイント復習チェックリストを整理します。

東大志望の受験生はもちろん、共通テスト国語(古文)の読解力を底上げしたい高校生・受験生や、
その指導をする先生方が、次のような目的で使える構成になっています。

このページでできること
対象 東大志望の受験生/難関大志望の高校生・受験生/古文指導をする先生
目的
  • 入試本文と現代語訳を対照しながら、人物関係と心情の流れを丁寧に追う
  • 頻出の古語・文法表現(「わりなく」「ひたぶるに」「〜かは」など)を整理する
  • 和歌+地の文をセットで読み、記述問題・現代語訳問題で点を取りにいく視点を身につける

「一度読んだだけで終わり」にせず、復習のたびに戻ってこられる解説ページとして活用してください。

おすすめの使い方

  • 模試・過去問演習後に、「本文→訳→語句→読解ポイント」の順で復習する
  • 記述問題の答案を見直すときに、「心情の流れ」「和歌の大意」の整理に使う
  • 授業プリントや解説スライドの叩き台としてそのまま再構成する

リード文(出典情報)

次の文章は『浜松中納言物語』の一節である。中納言は亡き父が中国の帝の第三皇子に転生したことを知り、
契りを結んだ大将殿の姫君を残して、朝廷に三年間の暇を請い、中国に渡った。そして、中納言は物忌みで籠もる女性と結ばれたが、
その女性は御門の后であり、第三皇子の母であった。后は中納言との間の子(若君)を産んだ。三年後、中納言は日本に戻ることになる。
以下は、人々が集まる別れの宴で、中納言が后に和歌を詠み贈る場面である。これを読んで、後の設問に答えよ。

すぐ確認:場面の要点・和歌の大意・人物関係(1分)

結論:別れの宴で、中納言が后に和歌を「まぎれ」に忍んで贈り、后は反語の歌で返しつつ御簾内へ退く――この一回性の別れ心情の重さを、和歌+地の文で根拠立てて説明できるかが要点です。

項目 1行要点 ここでの見方
場面 中納言が帰国する夜の別れの宴。皇子が席を外し、女房たちの話し声に紛れて歌をやりとりする。 「まぎれ」「忍びて」など、公にできない関係が状況から読める。
和歌①(中納言) もう確かめようがない。あの夜の逢瀬は夢だったのか――という切なさ。 「ふたたび」「夢」に注目し、再会不能を押さえる。
和歌②(后) 夢としてさえ思い出せるだろうか。幻のように逢ったのを「逢った」と言えるのか――(反語)。 「〜かは」は反語。結論が否定に振れる。
人物関係 中納言↔后(御門の后)/皇子が場面転換の合図/御門・東宮は惜別する側として描写。 敬語の向きと主語で、誰の心情かを取り違えない。
設問観点 心情(別れの重さ)/対比(日本↔その世)/和歌+地の文の根拠づけ。 和歌だけで完結させず、直前直後の地の文を根拠にする。

人物関係(混乱しない最小整理)

  • 中納言:帰国する当人。別れを「忍びて」歌に乗せる。
  • 后:御門の后。中納言の歌を受け、返歌して御簾内へ退く。
  • 皇子:「少し立ち出で」る人物。周囲がざわつく「まぎれ」を作る。
  • 御門:惜しみ悲しむ側として描写される(后の夫)。
  • 東宮:御門の第一皇子。注で確認して主語の混線を防ぐ。

品詞分解(設問で効く箇所だけ・抜粋)

  • 見るは見るかは:見る(動詞)+は(係助詞)+見る(動詞)+かは(係助詞)→ 反語(「…と言えるだろうか、いや言えない」)。
  • なんめり:なん(係助詞)+めり(助動詞・推量)→ 推し量りのニュアンスを作る。

東大で外しやすいポイント(即答)

  • 主語の滑り:誰が歌い、誰が退くのか。敬語・動作主で固定する。
  • 反語の取り違え:「〜かは」を肯定にしない(結論が逆転する)。
  • 和歌だけで終わらせる:和歌の前後の地の文(状況・反応)を必ず根拠に入れる。
  • 対比の落とし:「日本/その世」の対比が別れの重さを押し上げる。

このあと本文で、原文・現代語訳・語句文法・出題意図を順に確認できます。

2022年東大国語第2問古文『浜松中納言物語』本文(原文)

本文

忍びがたき心のうちをうち出でぬべきにも、さすがにあらず、わりなくかなしきに、皇子もすこし立ち出でさせ給ふに、御前なる人々も、おのおのものうち言ふにやと聞こゆるまぎれに、
ふたたびと思ひ合はするかたもなしいかに見し夜の夢にかあるらむ
いみじう忍びてまぎらはかし給へり。
夢とだに何か思ひも出でつらむただまぼろしに見るは見るかは忍びやるべうもあらぬ御けしきの苦しさに、言ふともなく、ほのかにまぎらはして、すべり入り給ひぬ。おぼろけに人目思はずは、ひきもとどめたてまつるべけれど、かしこう思ひつつむ。
内裏より皇子出でさせ給ひて、御遊びはじまる。何のものの音もおぼえぬ心地すれど、今宵をかぎりと思へば、心強く思ひ念じて、琵琶賜はり給ふも、うつつの心地はせず。御簾のうちに、琴のことかき合はせられたるは、未央宮にて聞きしなるべし。やがてその世の御おくりものに添へさせ給ふ。「今は」といふかひなく思ひ立ち果てぬるを、いとなつかしうのたまはせつる御けはひ、ありさま、耳につき心にしみて、肝消えまどひ、さらにものおぼえ給はず。「日本に母上をはじめ、大将殿の君に、見馴れしほどなく引き別れにしあはれなど、たぐひあらじと人やりならずおぼえしかど、ながらへば、三年がうちに行き帰りなむと思ふ思ひになぐさめしにも、胸のひまはありき。これは、またかへり見るべき世かは」と思ひとぢむるによろづ目とまり、あはれなるをさることにて、后の、今ひとたびの行き逢ひをば、かけ離れながら、おほかたにいとなつかしうもてなしおぼしたるも、さまことなる心づくしいとどまさりつつ、わが身人の御身、さまざまに乱れがはしきこと出で来ぬべき世のつつましさを、おぼしつつめることわりも、ひたぶるに恨みたてまつらむかたなければ、いかさまにせば、と思ひ乱るる心のうちは、言ひやるかたもなかりけり。
「いとせめてはかけ離れ、なさけなく、つらくもてなし給はばいかがはせむ。若君のかたざまにつけても、われをばひたぶるにおぼし放たぬなんめり」と、推し量らるる心ときめきても、消え入りぬべく思ひ沈みて、暮れゆく秋の別れ、なほいとせちにやるかたなきほどなり。御門、東宮をはじめたてまつりて、惜しみかなしませ給ふさま、わが世を離れしにも、やや立ちまさりたり。

〔注〕

  • 琴のこと――弦が七本の
  • 未央宮にて聞きしなるべし――中納言は、以前、未央宮で女房に身をやつした后の琴のことの演奏を聞いた。
  • その世――ここでは中国を指す。
  • 東宮――御門の第一皇子。
  • わが世――ここでは日本を指す。

『浜松中納言物語』現代語訳(抜粋部分)

現代語訳

包み隠しておけない胸の内(=后への恋心)を口に出してしまいそうになるにつけても、そうはいってもやはりそれはできることではないので、
どうしようもなく悲しい時に、皇子もすこしその場をお立ちになるので、后の御前にいる女房たちもそれぞれ何かおしゃべりしているのだろうか、
と話し声が聞こえてくるのに紛れて、(中納言は)

ふたたびと……
二度と、あの夜の夢のような逢瀬が夢であったのか現実であったのかとを、思い合わせる手だてもありません。あの夜見た夢はどのようにして見た夢であるのでしょうか。

という意味の歌を、たいそうこっそりとごまかしてお伝えになっている。

夢とだに……
夢としてでさえ、どうしてあなたは思い出しているのでしょう。ただの幻のように逢ったのは逢ったことになるのでしょうか。

こらえることもできそうにない(中納言の)御様子を見るつらさに、后はこの歌を口に出して言うともなく、かすかに紛らわして、
御簾の向こうにするりとお入りになってしまった。通り一遍に人目を気にするのでなければ、お引きとめ申し上げるだろうが、
(中納言は)賢明にも心にとどめた。

語句・文法のポイント

語句のポイント

  • わりなくかなしきに「わりなし」=道理に合わないほどどうしようもない。「どうしようもなくつらいので」の意。
  • おぼろけに人目思はずは「おぼろけなり」=普通だ、並一通りだ。「普通に人目を気にしない人であるなら」の意味。
  • ひたぶるに恨みたてまつらむかたなければ「ひたぶるに」=ひたすら、一途に。一方的に后だけを恨めないというニュアンス。
  • やるかたなきほどなり「やるかたなし」=晴らす手立てがなく、どうしようもなくつらい。
  • 人やりならずおぼえしかど「人やりならず」=他人のせいではなく、自分の意思から。自分で選んだ別れだという自己認識を示す。
  • なんめり係助詞「なん」+推量の助動詞「めり」。心中で推し量っている感じと、やわらかな断定が混じった形。

文法・表現のポイント

  • 〜かは(反語)「ただまぼろしに見るは見るかは」など、終止形+「かは」で反語になる。「見ることになるだろうか、いやそんなことはない」という強い否定。
  • 和歌と地の文の関係和歌の直前直後の地の文(「いみじう忍びてまぎらはかし給へり」など)は、和歌の場面・感情の説明になっており、設問の根拠になることが多い。
  • 敬語の方向中納言 → 后・皇子・御門への敬語の向きを追うことで、人物関係と心理的距離がつかみやすい。
  • 心情語の積み重ね「かなし」「やるかたなき」「あはれ」などの心情語を拾い、段落ごとに「感情の深まり」を整理すると、記述問題が書きやすくなる。

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出題のねらいと読解のポイント

東大国語としてのねらい

転生・中国宮廷という複雑な設定を、リード文から整理したうえで本文に反映できるか。
中納言・后・皇子・御門・東宮などの人物関係を取り違えずに読めるか。
和歌と地の文をセットで読んで、「誰が・何について・どう思っているか」を一行でまとめる記述力。
「日本」と「その世(中国)」の対比から、別れの一回性・重さを読み取らせる。

読解のポイント(設問への構え方)

  • 和歌の前後に線を引き、状況・感情・その後の反応を三点セットで押さえる。
  • 現代語訳問題では、一語一語の意味・品詞を確認したうえで、最後に「自然な日本語」に整える。
  • 心情記述問題では、「さびしさ」「感謝・なつかしさ」「人やりならずという自覚」など、複数の感情を構造化して書くことを意識する。
  • 共通テスト古文ではここまで重い記述は出ないが、東大レベルの精密な読みを経験しておくと、選択肢問題がかなり読みやすくなる。

復習チェックリスト

内容理解チェック

  • [ ] なぜ中納言と后が別れなければならないのか、自分の言葉で説明できるか。
  • [ ] 中納言の歌・后の歌がそれぞれ「どんな気持ち」を表しているか、一行でまとめられるか。
  • [ ] 「日本」と「その世(中国)」の対比が、この場面の別れの重さをどう強めているか説明できるか。
  • [ ] 中納言が后を「ひたぶるに」恨めない理由を、本文中の表現を使って言えるか。

語句・文法チェック

  • [ ] 「わりなし」「おぼろけ」「ひたぶるに」「やるかたなし」「人やりならず」の意味を即答できるか。
  • [ ] 「〜かは」が反語であること、その訳し方を本文を例に説明できるか。
  • [ ] 「なんめり」「給ふ」「たてまつる」などの敬語・助動詞を、文脈の中で判断できるか。

記述・和歌対策チェック

  • [ ] この一節を3〜4行程度で要約してみたか。
  • [ ] 二首の和歌について、それぞれの大意を自分の言葉で一行にまとめてみたか。
  • [ ] 自分の記述答案を、模範解答と比べて「足りない要素」をチェックしたか。

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