『伊勢物語』京にはあらじ|本文・現代語訳・あらじの意味と品詞分解【東下り】
東下り「京にはあらじ」
このページでは、高校古文・定期テスト・大学入試で頻出の『伊勢物語』東下りの一場面、
「京にはあらじ、あづまの方にすむべき国もとめにとてゆきけり。」から始まる部分の本文と現代語訳をまとめています。
「都を離れて東国へ旅立つ男」が、三河国八橋で「かきつばた」の花を目にする場面は、
教科書や共通テスト古文の題材としてもしばしば扱われる重要箇所です。
| 扱われ方 | 高校教科書で扱われる『伊勢物語』東下りの冒頭部分。 |
|---|---|
| 読解の軸 | 「京」と「あづま(東国)」の対比や、主人公の心理描写がポイント。 |
| 情景描写 | 三河国八橋・かきつばたなどの情景描写が印象的で、和歌(折句)へつながる導入場面としても重要。 |
共通テスト・定期テストでは、冒頭一文の心理+東国への旅立ちをどう捉えるかが、設問全体の土台になることが多い単元です。
受験生向け
学習のステップ
- まず古文本文だけを読み、自力で大意をつかんでみる。
- 次に現代語訳で意味を確認し、読み違えていた箇所をチェックする。
- 語句・文法のポイントを押さえたうえで、もう一度本文を音読する。
先生向け
授業での使い方
- 定期テスト対策用プリント・課題のベースとして利用。
- 語句・文法の解説や、読解のポイントを板書・スライドに再構成する素材として活用。
- 共通テスト古文の「文章の導入部分」の読み方を指導する際の例として用いる。
『伊勢物語』東下り「京にはあらじ」本文(古文)
【本文】
むかし、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、あづまの方にすむべき国もとめにとてゆきけり。もとより友とする人、ひとりふたりしていきけり。道しれる人もなくて、まどひいきけり。三河の国八橋といふ所にいたりぬ。そこを八橋といひけるは、水ゆく河のくもでなれば、橋を八つわたせるによりてなむ、八橋といひける。その沢のほとりの木のかげにおりゐて、かれいひ食ひけり。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。
(注)三河の国=現在の愛知県。
『伊勢物語』東下り「京にはあらじ」現代語訳
【現代語訳】
昔、男がいた。その男は、(自分の)身を無用のものと思い込んで、「京にはおるまい」と都を離れ、東国の方に住むことのできる国を求めようと思って出かけて行った。昔からの友人が一人、二人と共に行った。道を知っている人もなくて、道に迷いながら行った。三河の国、八橋という所に着いた。そこを八橋といったのは、水の流れる川がクモの足のように分かれているので、橋を八つわたしたことによって、八橋といったのである。その沢のほとりの木のかげに馬から下りて座り、干した飯を食べた。その沢に、かきつばたがたいそう趣のある様子で咲いていた。
語句・文法のポイント
『伊勢物語』東下りの冒頭一文には、共通テストや定期テストでよく問われる語句・文法がぎゅっと詰まっています。最低限ここだけは押さえておきましょう。
重要語句の意味とニュアンス
- 身をえうなきものに思ひなして
「えうなき」=「用(えう)なし」で「役に立たない・無用な」。
「思ひなす」=「(本当はそうでなくても)そのように思い込む」。
→「自分には価値がないのだと決めつけている」という自己否定のニュアンスが強い。 - 京にはあらじ
動詞「あり」の未然形「あら」+打消意志の助動詞「じ」。
→「京には住むまい」「京にはもう住むつもりはない」という決意・覚悟を表す。 - あづまの方にすむべき国もとめにとてゆきけり
「べき」=助動詞「べし」の連体形で、ここでは「住むのにふさわしい/適当な」。
「〜にとて」=「〜しようとして」「〜するために」。
→「東国の方に、住むのにふさわしい国を探そうとして出かけて行った。」 - もとより友とする人、ひとりふたりしていきけり
「もとより」=「以前から・もともと」。
→「昔からの友人が一人、二人と一緒に行った」=主人公は完全な一人旅ではない点に注意。 - 水ゆく河のくもでなれば
「くもで(蜘蛛手)」=クモの足のように、何本にも分かれた枝分かれ。
→川筋が複雑に分かれている様子を視覚的に描いた語。地形描写+主人公の迷いの象徴としても読める。 - かれいひ食ひけり
「かれいひ(乾飯)」=干した飯。携帯用・保存用の簡素な食事。
→都暮らしから一転した旅の厳しさ・質素さを示す小道具。 - かきつばたいとおもしろく咲きたり
「おもしろし」=「趣がある・風情がある」。
→単なる「きれい」ではなく、見ていて心惹かれるような美しさを表す。のちの「かきつばた」の和歌への布石。
文法・活用・助動詞の整理
- じ(打消意志)
・接続:未然形に付く。
・意味:一人称なら「〜まい(〜するつもりはない)」の打消意志、三人称なら打消推量。
→ここでは、一人称に近い視点からの「京には住むまい」という強い決意として押さえる。 - べし(適当)
「住むべき国」の「べき」は、男が自分の将来の居場所を探している文脈から「適当」の意味。
→「住むのにふさわしい国」。
※べしは多義(推量・当然・可能・義務・適当・意志)なので、「誰が・どんなことについて言っているか」で意味を判断する練習にもなる。 - 思ひなして
「思ひなす」サ行四段活用動詞の連用形+接続助詞「て」。
→「(本当はそうでなくても)そのように思い込んで」「わざとそう決めつけて」のニュアンス。 - いたりぬ・咲きたり
「いたりぬ」=完了の助動詞「ぬ」終止形、「咲きたり」=存続・完了の助動詞「たり」終止形。
→動作が完了している状態(到着した・咲いている)を、落ち着いた語り口で述べている。

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出題のねらいと読解のポイント
1. 「京」と「あづま」の対比で読む
- 男は「身をえうなきもの」と感じ、「京にはあらじ」と都を捨てる決意をする。
- 一方で「あづまの方にすむべき国もとめにとてゆきけり」と、東国を「自分の新しい居場所候補」として描く。
- 設問では、「京=窮屈・しがらみ」「あづま=自由・新天地」といったイメージの対立を意識して選択肢を判断する問題が多い。
2. 冒頭一文から主人公の心理をつかむ
- 「身をえうなきものに思ひなして」は、都での失敗や傷つき方の大きさを示すキーフレーズ。
- 共通テスト型の問題では、この一文を踏まえて
・「気晴らしの旅行」なのか
・「人生を賭けた逃避なのか」
といった選択肢の違いがよく問われる。 - 本文に具体的な理由は書かれていないため、「理由を決め打ち」する選択肢(失恋だけに限定する 等)はやや危険。
3. 道中描写と心理の重ね合わせ
- 「道しれる人もなくて、まどひいきけり」は、
・文字通り:道に迷いながら進んだ
・比喩的に:人生の行き先を見失っている
という二重の意味で読める表現。 - こうした二重性を意識しておくと、「作者の意図」「表現の効果」を問う設問に対応しやすくなる。
4. 八橋・かきつばたの情景と和歌への伏線
- 八橋の地形説明(「水ゆく河のくもで」「橋を八つわたせる」)は、視覚的なイメージを与えると同時に、分岐する川=分岐した人生、という象徴的な読みもできる。
- 「かきつばたいとおもしろく咲きたり」は、このあと続く「かきつばた」の折句和歌への導入部分。
- テストでは、この場面単独ではなく、後の和歌部分と合わせて
・自然描写と心情
・都への思いとの関係
を尋ねる問題が作られやすい。
復習チェックリスト
内容理解チェック
- [ ] 「男」が京を離れる理由を、自分の言葉で一文にまとめて説明できる。
- [ ] 「京にはあらじ」「あづまの方にすむべき国もとめにとてゆきけり」の二つが、対になった表現であることを説明できる。
- [ ] 三河国八橋の地形(くもで・橋を八つ渡す)のイメージを、図や言葉で説明できる。
- [ ] 八橋・かきつばたの情景描写が、このあと登場する和歌とどうつながるかを説明できる。
語句・文法チェック
- [ ] 「えうなき」「くもで」「かれいひ」「おもしろく」の意味を答えられる。
- [ ] 「身をえうなきものに思ひなして」の「思ひなして」が「そうと決めつけて」のニュアンスをもつことを説明できる。
- [ ] 「京にはあらじ」の「じ」が打消意志で、「〜まい」と訳せることを確認した。
- [ ] 「住むべき国」の「べき」が「適当(〜するのにふさわしい)」の意味であると判断できる。
本番までの活用法
- [ ] 本文を音読し、主語の切れ目・助動詞・係り結びなどを自分で意識しながら読めた。
- [ ] 現代語訳を隠して、自力で訳を書き、そのあと答え合わせをして修正した。
- [ ] 他の解説と読み比べて、「京/東」「自己否定/新しい生活」の構図を自分なりに整理した。
- [ ] 『東下り』の続き(和歌部分や駿河・隅田川の場面)も読み、物語全体の流れをおさえた。

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