東大古文・漢文 記述と現代語訳の攻略|主語・指示語を外さない答案の作り方(後半)【古典専門塾かきつばた】【読解ラボ東京】

 

この記事では、中学受験専門夏井算数塾代表・夏井と、読解ラボ東京代表・長島、そして古典担当の岡部による対談内容をもとに、東京大学入試の古文・漢文(国語)記述問題の考え方・現代語訳の作り方・部分点を取りに行く戦略を整理しました。
東大を目指す受験生だけでなく、難関大の記述式古文・漢文に挑む方にも役立つ内容です。


東大古文・漢文の特徴と学習方針

文章そのものは「平易」、だがジャンルは多岐にわたる

今年に限らないですが、東京大学の古文・漢文の文章そのものは割合に平易です。ただ、ジャンルが多岐に渡ります。

東大の古文・漢文は、難解な語句や特殊な文体で攻めてくるというよりも、文章自体は比較的読みやすい一方で、扱うジャンルが広いという特徴があります。特定のジャンルに偏った対策をしても対応しきれません。

そのため、東大古文・漢文では次のような学習方針が必須です。

  • 「このジャンルだけやる」というより、万遍ない学習を重ねる
  • 古文常識・漢文句法・文学史など、頻出領域を広く浅くではなく、広く深く押さえておく
  • さまざまなタイプの文章に触れ、読解パターンの引き出しを増やす

問題形式は、大きく分けて次のような構成になります。

  • 傍線部の現代語訳(訳文問題)
  • 内容説明・理由説明などの記述問題

東大古文の現代語訳の基本方針

基本は「直訳・逐語訳」を徹底する

古文の現代語訳というのは基本的には直訳、むしろ逐語訳に近いです。
勝手に自分で解釈して自分なりの言葉で言い換えるという事は基本的にしてはなりません。

東大を含む難関大の古文現代語訳では、意訳よりも直訳(逐語訳)を優先することが大原則です。

  • まずは一語一語の意味・文法を押さえて、逐語訳を作る
  • そのうえで、日本語としてあまりに不自然な箇所だけを最小限手直しする
  • 自分の感想や推測を入れず、本文に書いてあることだけで訳文を構成する

「きれいな日本語にしよう」と意訳に走ると、本文のニュアンスから離れてしまい、減点の原因になります。
「まず直訳、その後に必要最低限の補い」というプロセスを徹底しましょう。

条件付き現代語訳への対応

東大では、単なる「傍線部を訳しなさい」だけでなく、いわゆる「条件付き現代語訳」が頻出です。

  • 主語・動作主を補って訳す(主語明示型)
  • 指示語を明らかにして訳す
  • 和歌であれば、掛詞・縁語を意識して訳しなさいといった指示が付くこともある

このタイプの問題では、条件に書かれていることを満たさない限り、どれだけきれいな訳を書いても正解にはならない点に注意が必要です。

  • 設問の「条件」をまずチェックし、赤線を引くなどして意識する
  • 条件に沿って、主語・指示語・和歌の掛詞などをはっきりさせたうえで訳文を作る

指示語の扱いと注意点

東大古文では、指示語(これ・それ・しかるべく など)をどう具体化するかが問われます。

  • 前方指示・後方指示の両方を意識して、どの内容を受けているのかを見極める
  • 「しかるべく」など、必ずしも具体的な一箇所を指しているわけではない語もある
  • 「指示語が出たらとりあえず前を見ればよい」という単純な話ではない

指示語を機械的に前後に当てはめるのではなく、文脈や心情の流れ・状況を踏まえて内容を特定していくことが求められます。


「分かりやすく説明しなさい」問題の攻略

「分かりやすく」がいちばん分かりにくい

状況・事情については特にその前後を見れば明らかですが、「分かり易く」という問題形式というのは出題意図が分かり易くない訳です。

東大の記述では、

  • 「状況・事情を説明しなさい」
  • 「傍線部について分かりやすく説明しなさい」

といった設問がよく出題されます。特に「分かりやすく説明」は、何をどこまで書けばよいのかが曖昧に見えるため、多くの受験生が苦手とする形式です。

このときに意識すべきポイントは次の通りです。

  • 回答だけを読んで、文意が通じるかどうかを自分でチェックする
  • 傍線部だけを訳すと本文上は意味が通じていても、回答だけでは背景・理由が分からないケースが多い
  • そのため、心情が生まれた理由・状況・人物関係など、前後の「バックグラウンド」を必要な分だけ補う

実際の問題構成としては、

  • 傍線部の逐語訳だけだと、1行程度にしかならない
  • バックグラウンドや心情の理由を要約して付け足すことで、1.5〜2行分の答案を作る

ここで大切なのは、

  • 「何を補えば、傍線部だけでは伝わらない文脈が伝わるのか」を逆算的に考える
  • 「逐語訳だけでは何が通じないのか」を意識して、必要な背景要素を選ぶ

背景の「優先順位」を見誤らない

東大の古文でよくある失点パターンが、背景説明の優先順位を間違えるケースです。

  • 理由が二段階あるのに、その「二段手前」の遠い理由を書いてしまう
  • 本来書くべきは動機そのものなのに、背景だけ延々と書いてしまう
  • 人物関係ばかり詳しく書いて、肝心の「なぜその行動をとったのか」が抜けてしまう

傍線を説明する上で必要なのが動機だ、という事です。

「分かりやすく」の多くは、傍線部分の動機や理由を中心に書いてほしい問題です。
人物関係や状況はあくまで補助的な情報であり、本当に聞かれているのはどのレベルの理由なのかを見極めることが得点の分かれ目になります。


記述答案の「要素」と優先順位

現代文も古文も「要素」を意識して書く

現代文記述と同様に、古文の記述も複数の「要素」から構成されます。東大現代文なら、13.5センチ2行で3要素程度に落ち着くことが多いと言われますが、古文でも考え方は同じです。

ただし、古文では文法要素がそのまま得点要素になることが多いのが特徴です。

東大古文1行問題の「要素」イメージ

古文の1行前後の記述については、問題によって異なりますが、例えば次のような構成が考えられます。

  • 主語を明らかにして訳す:主語を補う → 1要素
  • 用言(動詞・形容詞など)の意味:現代語と意味が異なる現古異義語であれば、その意味を押さえる → 1要素
  • 助動詞・助詞・呼応の副詞など文法要素 → 1要素(場合によっては2要素)

このとき、採点ではしばしば

  • 主語…ウェイトを高くして2点
  • 文法要素…まとめて1点

といった形で配点の強弱が付いていると考えられます(実際の配点は非公表ですが、そのくらいの感覚が妥当です)。
いずれにせよ、「何を書けば点になるのか」を構造的に見る目が重要になります。

ミニマム答案 → 肉付けの順で練習する

記述答案の作り方には大きく2つのタイプがあります。

  • 最初から60字程度の大きめの答案を書いて、そこから削っていくタイプ
  • 10〜15字の「芯」になるミニマム答案を作って、そこに必要条件を足していくタイプ

どちらのアプローチもありですが、一度は「ミニマムなものを作って、そこに必要条件をどんどん足していく」練習をしておくと、自分の中で要素の優先順位が整理されるようになります。


ベストでなく「ベターな解」を作る発想

分からない部分をどう扱うか

本番では、どうしても一部よく分からないブロックが出てきます。ここで重要なのは、「分からないから何も書かない」ではなく、ベターな解で部分点を取りに行く姿勢です。

完璧主義にならないというのが非常に大切だと思います。

現代文の例としては、

  • 傍線部が4ブロックあり、1ブロックだけ意味が曖昧なとき
  • その1ブロックについては、そのまま本文の言葉を使ってしまう(そのブロックの点は捨てる)
  • 残り3ブロックを適切に言い換えれば、4分の3はきちんと得点できる

古文でも同様です。どうしても分からない主語や目的語があっても、

  • その他の文法・訳をきちんと押さえる
  • 分からない部分はその旨が分かる形で埋めておく(白紙にはしない)

といった対応で、得られる部分点を最大化することが大切です。

「白旗解答」を出す勇気

受験生の中には、分からない箇所を曖昧なまま書くことに抵抗を感じる人もいます。しかし、東大レベルになると、

  • 満点・完答を狙うのではなく、「どれだけ落とさず拾えるか」が勝負
  • 完全に分からない箇所は、潔く「ここは分からなかった」と示しつつ、その他を完璧に仕上げる

というメンタルセットが必要です。
指導者側も、「現場判断としてベターな解を作るやり方」を具体的に伝えておくことで、受験生が本番で勇気をもって答案を書けるようにしていくことが求められます。


東大は「加点法」で採点されると考える

現代文・古文・漢文ともに、東大の記述は基本的に加点法で採点されていると考えるのが自然です。

  • 減点法で一つずつ減らしていくと、受験生全員が点数ゼロに近づいてしまう
  • 実際には、書けている要素・アピールできている文法や品詞分解に点が加わっていく

その前提に立つと、大事なのは次の2点です。

  • とにかく何か書いて埋めること(白紙は絶対に避ける)
  • 出題意図としてこの語・この品詞分解を聞きたいと感じる箇所を、確実に押さえること

例えば、

  • 主語が多少違っていても、その他の部分の訳がきちんとしていれば点は入る
  • 指示内容を明らかにせよ、という設問は、多くの場合1〜2点レベルの配点である
  • ぶっちゃけ分からない場合でも、とんちんかんなことを書かなければ致命的な減点にはなりにくい

大切なのは、分かっている部分で確実に取り切ることです。5問中2〜3問主語や目的語を落としても、残りをしっかり取れば合計としては十分な得点になります。


添削と自己採点で「解答根拠」を言語化する

解答根拠を先生に「詰めて説明してもらう」習慣

模試や過去問演習で、理由説明・内容説明の記述をしても、

  • 「それなりに書けた気がするのに、点がもらえない」

という経験は多くの受験生に共通です。このときに重要なのは、

  • 「なぜこの答案では点が入らないのか」を、必ず大人(先生)に質問して確認する
  • 「どこを書きさえすれば良かったのか」「どういう論理でその場所を書くべきだったのか」を、具体例を通して理解していく

先生に、なんでその回答になるのかという解答根拠をきちんと詰めて説明しろ、と要求する癖を付けて頂けると、東大の回答は作りやすくなるんじゃないかと思います。

市販の東大国語問題集で「自己添削」する

東大国語の過去問解説には、駿台や河合塾から出ている問題集などで添削基準が示されているものがあります。これを活用し、

  • まず自分で答案を書き、自分で添削してみる
  • 「この添削で合っているか」を塾や学校の先生に確認してもらう

というプロセスを繰り返すことで、

  • 「答案の要素がいくつあるのか」「どの要素が書けていて、どれが抜けているのか」を自分で判断できる
  • 自己採点・自己フィードバックの質が上がる

ようになっていきます。

一番いけないのは「解きっぱなし」

受験生が一番いけないのは、解きっぱなしやりっぱなしな訳です。

特に国公立志望の受験生は、

  • 記述・要約・訳文などを書きっぱなしにしない
  • 必ず自分で丸つけをし、「なぜここは○で、なぜここは×なのか」を確認する
  • フィードバックをもとに、同じパターンの設問をもう一度解き直す

というサイクルを回す必要があります。
解いた問題の数ではなく、「一問からどれだけ学びを回収できたか」が、東大国語の合否を分けます。


まとめ:東大古文・漢文で点を積み上げるために

最後に、本文で述べたポイントを整理します。

  • 文章そのものは平易だがジャンルは多様なので、特定ジャンルに偏らず万遍なく読む
  • 現代語訳は直訳・逐語訳を基本にし、そのうえで必要最小限だけ整える
  • 「条件付き現代語訳」では、主語・指示語・掛詞など、設問の条件を必ず満たす
  • 「分かりやすく説明」問題では、傍線部+背景・動機をセットで書き、理由のレベルを取り違えない
  • 記述答案は複数の「要素」で構成されると理解し、ミニマム答案→肉付けの練習で優先順位を掴む
  • 完璧主義を捨て、ベターな解で部分点を取りに行く(白紙は絶対に避ける)
  • 東大の採点は加点法と考え、出題意図が見える文法・語のポイントを確実に押さえる
  • 模試や過去問は、必ず添削・自己採点を行い、「要素」を言語化していく
  • 解きっぱなしにせず、フィードバック→やり直しのサイクルを回す

こうした考え方を身につけていけば、東大古文・漢文は決して「センス頼み」の科目ではありません。
直訳をベースにした堅実な読み・要素分解・部分点を積み上げる姿勢で、一歩一歩点数を伸ばしていきましょう。

読解ラボ東京では、こうした考え方を踏まえた東大国語・古文漢文の個別指導・添削指導も行っています。ご興味のある方は、ぜひ公式サイトもご覧ください。