古典常識「清涼殿」
本日は清涼殿についてお話をします。
清涼殿というのは内裏の中のここの建物です。
ここが清涼殿という建物になります。
天皇が日常政務であるとか、あるいはプライベートの時間を過ごす場所と理解して下さい。
この図は先ほどの5番、清涼殿の建物を詳しく書いたものになります。
建物のメインとしては④⑲⑳㉑㉒㉓のエリアです。
ここから先はいわゆる庇の間と言われる拡張部分になる訳です。
ともあれ、天皇は日常については①②のエリアに過ごしています。
ここは昼御座と書いてひのおましと呼ぶ場所です。
天皇は朝起きるとこの石灰壇と言われる下を漆喰で固めた場所に行きます。
ここで朝、国中の神様にお祈りを捧げるという場所になります。
朝この石灰檀という所でお祈りをしたあと、この昼御座という所に出てきて政務を行ないます。一人で政務を行う訳ではありませんので、当然家来たちというか貴族たちがやってくる訳です。
その貴族たちはどうやってこの天皇に会って政治をするかというと、⑭㉔のこちらの建物です。
ここが殿上の間と言われるエリアです。
殿上の間に上がる事が出来る人を殿上人と言います。
地位五位の貴族の事を殿上人と言いますが、それは天皇に会う事が出来る人たちという事です。
更に言い換えるならば、それは殿上の間に上がる事が出来る人たちという事になります。
この殿上の間で天皇に会う為に貴族たちはずっと控えている訳です。
ちなみにこの殿上の間は、㉓の右下あたりにちょうど櫛形、半月形の穴が付いているんですが、ここについている櫛形の窓から天皇は誰が来ていて誰が来ていないのかという事を把握する事が出来ます。平安貴族というと恋と歌と遊びにかまけていて仕事なんかしない人たちだと誤解されていますが、そんな事はありません。ちゃんと出勤簿もあります。
この出勤簿というのがちょうどここの殿上の間の所にこんな形で山形の大きな板があって、そこに自分の名前を書いた紙を貼り付けていくというのがあります。
ともあれ、出勤しているかどうか、あるいは誰が席を外しているのかといった事は天皇からのぞき見る事が出来ます。
殿上の間で控えていた貴族たちは⑬を通ってさらにここの板敷きの所まで出てくる訳です。
こういった孫庇の所、あるいは東庇とか孫庇と言われる所ですが、ここで天皇と対面するという事になります。
ちなみに、⑪にはこう昆明地障子、あるいは⑩、一番北の端の所ですが
ここには荒海障子というパーテーションみたいなものが立っています。
これについては、枕草子なんかで特にこの荒海障子に描かれている化け物が怖いであるとかといった事が学校で取り扱う文章なんかにも出てきています。
なので、こういった荒海障子で描かれているものはどんなものなのか、というのは必ず国語便覧などで確認をしてみて下さい。
いずれにせよ①⑥⑨⑫側というのは、天皇が行う政務に関する部分です。
天皇のパブリックな、オフィシャルな時間です。つまり昼の時間を代表する場所という事になります。
それに対して北側さらに西側というのは天皇のプライベートな時間を表すエリアという事になります。
㉒の部分を台盤所と言います。
ここは女房たちの控え室という事になりますが、台盤というのはテーブルの事だと思って下さい。
天皇の朝夕のご飯、当時は一日二食です。朝夕のご飯をここでセッティングする訳です。
セッティングしておくのを台盤の上に置く訳ですが、それを女房たち、あるいは女官たち、あるいは天皇の秘書官である蔵人たちが持って帝のもとに持っていくという事になります。
そして、天皇が休む、天皇が夜寝る場所というのが③④⑤⑦⑧のエリアになります。
ここを夜御殿、夜の御殿と書いてよんのおとどと言います。
ひのおまし、あるいはひるのおましに対して、よんのおとどと言います。
ベッドルームになる訳です。
④⑤⑧のエリアが天皇の奥さんたちの控え室という事になります。
このエリアの事を上の御局と言います。
上の御局には藤壺と弘徽殿という藤壺の上の御局、弘徽殿の上の御局という控え室が二間あります。
それらは後宮の藤壺の事、あるいは弘徽殿の事とそれぞれ分けて理解して下さい。
名前が同じなだけに分からなくなってしまいそうですが、それぞれ藤壺という後宮の建物、淑景舎に近いから藤壺の上の御局です。
弘徽殿という後宮のこの辺に立っている建物に近いので弘徽殿の上の御局と名前が付いているだけで、実際にはこっち側のそれぞれの藤壺や弘徽殿とは別のものを指していますので、この辺名前が同じなだけで全く別物なので気を付けて読んで頂きたい所です。
ちなみに、この間に萩の戸と呼ばれる場所があります。
村上天皇の奥さんで正妻格であった藤原安子が弘徽殿の上の御局に控えていた際に
この萩の戸に一生懸命ゴリゴリ壁に穴を開けて隣の部屋に控えていた藤原芳子を覗いたというお話があります。藤原芳子は村上天皇が最も愛した女御だった訳ですが、穴を開けて中の様子を覗いてみるとなるほど天皇の寵愛を受けるぐらいかわいいというのを見て腹を立てた安子が手元にあったかわらけの割れ、瀬戸物のかけらを芳子に穴を通して投げつけたという場面があるのはここのエリアになります。
いずれにせよ、この西側そして北側というのが天皇のプライベートのエリア、
そして南側東側というのが天皇のオフィシャルな、あるいはパブリックなエリアと理解をして下さい。