古典常識「清涼殿」

古典常識/平安京・内裏
対象:高校生〜大学受験生

清涼殿は、天皇の日常政務とプライベートな時間の両方が営まれた、内裏の中核となる建物です。
本ページでは、清涼殿の位置・構造・主要な部屋の役割から、殿上人や上の御局、萩の戸にまつわるエピソードまで、
古典作品の背景理解に欠かせないポイントを整理して解説します。

動画で学ぶ:清涼殿の構造と役割

清涼殿の図をもとに、天皇がどこで政務を行い、どこで休み、どこで食事をとったのかを視覚的に確認できる動画です。
本文とあわせて視聴することで、古典の舞台として登場する清涼殿のイメージが格段に掴みやすくなります。

1. 清涼殿とはどんな建物か

平安京内裏の清涼殿の配置図。天皇の日常政務と私生活の場を示す。

清涼殿は、内裏の中にある重要な建物で、天皇が日々の公務を行い、同時に私生活の多くを過ごした場所です。

いわば、「執務室+居間+寝室」が一体となった空間であり、平安文学に頻繁に登場する、物語の舞台そのものでもあります。

  • 日常政務の中心……家臣たちと対面し、政治を行う場所
  • プライベート空間……天皇が休息し、后妃たちが控える生活の場
  • 人間関係のドラマの舞台……嫉妬や寵愛など、物語的な出来事も起こる場所

天皇が日常政務であるとか、あるいはプライベートの時間を過ごす場所と理解して下さい。

清涼殿の構造と各エリアの役割を理解しておくと、『枕草子』『源氏物語』などの場面描写が立体的にイメージできるようになります。

2. 清涼殿の構造と主なエリア

清涼殿の詳細平面図。昼御座、殿上の間、夜御殿などの位置関係を示す。

清涼殿は、多数の部屋と庇(ひさし)の部分から成り、南東側が公的空間/北西側が私的空間という構造になっています。

図中では、④・⑲・⑳・㉑・㉒・㉓のあたりが建物のメイン部分に相当し、その周囲を庇の間が取り囲む形です。

エリア 名称・役割 キーワード
南側中央 昼御座(ひのおまし)と石灰壇。朝の祈りと日中の政務を行う。 祈り/日常政務/パブリック
南側東寄り 殿上の間。殿上人が控え、天皇と対面するために待機する場所。 殿上人/出勤簿/対面
北西側 台盤所・夜御殿・上の御局など。食事準備や就寝、后妃の控えの場。 台盤所/ベッドルーム/プライベート
内部障子 荒海障子・昆明池障子など。物語にも登場する印象的な障子絵。 枕草子/絵画/怪物

3. 昼御座と石灰壇──「朝の祈り」と「日中の政務」

3-1. 石灰壇(せっかいだん)とは

天皇は朝起きると、まず石灰壇と呼ばれる、下を漆喰で固めた場所に向かいます。

ここは、「国中の神々に祈りを捧げる場所」であり、1日の始まりを告げる宗教的な空間と言えるでしょう。

  • 漆喰で固められた壇上
  • 毎朝の祈りの場
  • 国家的儀礼の「ミニマム版」ともいえる日常儀礼

3-2. 昼御座(ひのおまし)と日常政務

朝の祈りが終わると、天皇は昼御座と呼ばれる場所に出てきて、日中の政務を行います。

朝この石灰壇という所でお祈りをしたあと、この昼御座という所に出てきて政務を行ないます。

昼御座は、「天皇のオフィス」に相当する空間であり、ここで貴族たちと対面しながら政治が進められていきます。

4. 殿上の間と殿上人──「出勤簿」とのぞき窓

天皇と政務を行うために、貴族たちは殿上の間と呼ばれるエリアに集まります。
図中では⑭・㉔あたりの建物がこれにあたり、ここに上がれる身分の者を殿上人(てんじょうびと)と呼びます。

殿上人たちは殿上の間で控え、順番を待ちながら、やがて⑬を通って板敷きのところまで進み、天皇と対面します。

4-1. のぞき窓と「出勤簿」

清涼殿の図を見ると、㉓の右下あたりに半月形(櫛形)の穴があり、ここから天皇は
「誰が来ていて、誰が来ていないか」を確認することができました。

さらに殿上の間には、山形の大きな板が置かれ、そこに自分の名前を書いた紙を貼ることで
出勤状況を示すしくみがありました。

平安貴族というと恋と歌と遊びにかまけていて仕事なんかしない人たちだと誤解されていますが、そんな事はありません。ちゃんと出勤簿もあります。

このような描写を知っておくと、「遊んでばかり」のイメージだけでは見えない、官僚としての平安貴族の姿が浮かび上がってきます。

5. 荒海障子と昆明池障子──『枕草子』にも登場する障子絵

清涼殿内部にある荒海障子の位置を示した図。怪物の絵柄が描かれているとされる。

清涼殿内部には、昆明池障子(⑪付近)や、北端に位置する荒海障子(⑩付近)といった障子絵がありました。

特に荒海障子には、怪物のようなものが描かれていたとされ、『枕草子』など学校教材でもしばしば言及されます。

こういった荒海障子で描かれているものはどんなものなのか、というのは必ず国語便覧などで確認をしてみて下さい。

便覧の図版とあわせて覚えておくと、文章中の一言が一気に立体的なイメージとして立ち上がってきます。

6. 台盤所・夜御殿・上の御局──天皇の私生活エリア

清涼殿の北側・西側は、天皇のプライベート空間としての性格が強いエリアです。
ここには食事準備の場や寝所、后妃たちの控え室が並んでいました。

6-1. 台盤所(だいばんどころ)──食事を整える場所

図中の㉒にあたる部分が台盤所です。ここは女房たちの控え室でもあり、
天皇の朝夕の食事をセットする場所でした。

  • 「台盤」はテーブルの意
  • 一日二食(朝・夕)の食事をここで準備
  • 女房・女官・蔵人たちが、台盤から帝のもとへ食事を運ぶ

6-2. 夜御殿(よんのおとど)──ベッドルームとしての空間

③・④・⑤・⑦・⑧のエリアが、天皇が夜に休む場所「夜御殿」です。
昼間の「昼御座」に対して、夜の御殿=ベッドルームに相当します。

6-3. 上の御局(うえのおつぼね)──后妃たちの控え室

④・⑤・⑧の部屋は、天皇の奥方たちが控える上の御局と呼ばれる空間です。
ここには、後宮の建物にちなんだ名前が付けられました。

  • 藤壺の上の御局……後宮の藤壺に近い位置にあるため
  • 弘徽殿の上の御局……後宮の弘徽殿近くにあるため

以上のように、南・東側=パブリック/北・西側=プライベートという区別を頭に入れておくと、
清涼殿の場面描写がずっと整理して読めるようになります。

7. 萩の戸と藤原安子・藤原芳子──人間ドラマが生まれる構造

上の御局どうしの間には、萩の戸と呼ばれる場所があります。
ここは、清涼殿の物理的な構造が、后妃どうしの微妙な人間関係と結びついて表れる象徴的な場所でもあります。

たとえば、村上天皇の正妻格であった藤原安子が弘徽殿の上の御局に控えていたとき、
萩の戸のあたりで隣室の藤原芳子を覗き見るというエピソードが伝えられています。

穴を開けて中をのぞき、「なるほど天皇が最も愛しただけあって美しい」と感じた安子は、
手元のかわらけの欠片を穴から投げつけたとされます。

  • 萩の戸……上の御局同士の境目となる場所
  • 藤原安子……正妻格、弘徽殿の上の御局に控える
  • 藤原芳子……村上天皇が最も寵愛した女御

このような逸話は、建物の構造が人間関係や感情の衝突を生み出すことをよく示しています。
清涼殿の図を頭に入れておくと、物語に出てくる嫉妬や対立の場面も、よりリアルに感じられるでしょう。

8. まとめ:清涼殿を押さえると、古典の世界が立体的になる

清涼殿についてのポイントを整理しておきます。

  • 清涼殿は、天皇の日常政務と私生活の両方が営まれた内裏の中心的建物である。
  • 南・東側の昼御座や殿上の間は、祈りと政務が行われるパブリックな空間
  • 殿上の間には殿上人が控え、のぞき窓や出勤簿によって出勤状況が管理されていた。
  • 荒海障子や昆明池障子などの障子絵は便覧で必ず図版を押さえておきたい重要モチーフ
  • 北・西側の台盤所・夜御殿・上の御局は、食事・就寝・后妃の控え室などのプライベートエリア
  • 藤壺・弘徽殿といった名前は、後宮の建物名と清涼殿内部の部屋名に共通して登場するため、混同に注意。
  • 萩の戸のエピソードなど、建物の構造を知ることで嫉妬や寵愛のドラマがより鮮明に理解できる

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