「助動詞」はなぜ難しい?

何が難しい?

――今回は、助動詞はなぜ難しい?という事です。
古文の文法、あるいは読解をやっていくにあたって
どうしても助動詞が壁になってくる事が結構多いというお話をよく伺います。
という事で、今回はそもそもこの助動詞のどの点が難しいポイントなのかという事を
明らかにしていこうという話をさせてもらえばと思います。
ざっくりなんですが、何が難しいですか?

岡部:助動詞は数え方によりますが、27種類の助動詞があります。
数え方によって前後するので説によっては「る・らる・す・さす・しむ」を入れないので、
25個とか23個とか、もっと言うと30とか江戸時代のものを含めると60ぐらいになるかな?
という数がいっぱいある訳です。
大学入試によく出題されるもので言えば27種類あります。
その27種類ある中で、それぞれに接続がある訳です。
接続というのは例えば打消の助動詞「ず」の上は必ず未然形です。
「花咲かず」と上が未然形になると決まっている訳です。
「べし」だったら上が終止形です。
それぞれの助動詞にそれぞれの接続があります。
且つ、助動詞はご存知の通り活用語ですから、
未然、連用、終止、連体、已然、命令と六つの活用がある訳です。
さらに、それぞれに対して多い助動詞だと
推量・意思・勧誘・仮定・婉曲・適当と6個意味があります。
少ないものでも2、3個ありますから、平均して3、4個あるという勘定になります。
接続が1個あって活用が6個あって、3、4個の意味がくっついてきて、
それぞれにそれぞれ意味に訳がある訳です。
そうすると13個から14個ぐらいの知識が必要になります。
それが1個の助動詞につきそれだけある訳ですから、30×13とか14という数になる訳です。
400から500近い知識というのが必要になるからです。
それを訳も分からず端から全部一辺にして覚えてしまおうと思うから分かんなくなる訳です。
やっぱり助動詞を勉強していく際には整理をしていくという事が重要になります。
その整理をする為には前もって全体像というかいきなりディティールに入るのではなくて、
例えば「る・らる」の助動詞は使う時に、
受身・自発・可能で尊敬で未然形接続で活用は下二段活用だから、
[れ・れ・る・る・れれ・れよ・られ・らる・らるる・られよ]と活用するとかという事を
一気に覚えようとすればそれは30個それやったらパニックになるに決まっています。
だから大まかに全体像を掴んで、マクロな所からどんどんミクロに迫っていく、
ディバイド&ルールと言うんでしょうか?
分割して支配していく、覚えていくという事が大事だろうと思います。

どこから勉強したらいい?

――例えばまずどこからスタートするかという手始めでいうとどこからスタートしたらいいですか?

岡部:まずは接続が大事になるかと思います。
色んな流儀があって色んな教え方があって覚え方があるんだと思いますが、
よくあるのが歌で覚えるパターンです。
歌で覚えるパターンというのは何が優れているかと言うと、
単にメロディーで覚えやすいからというのもあるでしょうが、それ以前に助動詞にはどういう種類があるんだ、どういう助動詞があるんだという事を歌で覚えてしまう訳です。
全部のとりあえず助動詞がこんな助動詞があるよ、という事がそれで覚えられるので、
まず接続を歌でざっとどんな種類があるのかという事を覚えてしまいます。
そのあとに今度は意味をグルーピングして覚えていきます。
例えば、受身・自発・可能の尊敬の「る・らる」、あるいは使役、あるいは尊敬の
「す・さす・しむ」というのは一つの大きなグループになります。
これは主語と動作主の関係を表す助動詞です。
例えば、「岡部殴られる」といった場合は岡部は殴ってない訳です。
あるいは、「岡部が殴らせる」と言ってもやっぱり岡部は殴っていません。
誰か可哀想な人が実行犯にさせられている訳です。
という訳で、この「れる・られる」、現代語だと「れる・られる・せる・させる」です。
古文、「る・らる・す・さす・しむ」というのは主語と動作主に関わるような
主語ブロックと僕は呼んでいますが、そういったグルーピングになります。
今度は、「き・けり・つ・ぬ・たり・り」みたいな時世に関わる、
時間に関わるような助動詞グループもあります。推量に関わるようなもの10個ぐらいありますが、こういったものです。
そしてその他のものと大きく四つに分けて、四つに分けた上で今度は「る・らる」だけで考えていくというふうに、大きな所から徐々に分割していってディティールに入っていくという事が大事です。
さらに、接続・意味と続いたあとに今度活用です。
助動詞は助動詞自体が活用語ですから、活用覚えなきゃいけないんですが、
こちらについてもやっぱりグルーピングしてあげる事が大事です。
助動詞というのはほとんどが用言と同じ活用の種類、活用の仕方をします。
例えば、今先ほど「る・らる・す・さす・しむ」について
さらっと活用表を暗記していましたけれど、別に覚える人なんかない訳です。
これは仕事だから覚えていますが、受験生は覚える必要はない訳です。
受験生はこれが下二段型、下二段動詞と同じ活用をするんだ、「え・え・う・うる・うれ」という
活用をするんだという事さえ覚えておけば、当然「らる」だったら、「られ・られ・らる・らるれ・らるる・られれ・られよ」と活用するだろうという事が容易に想像出来る訳です。
なので、活用の種類でグルーピングしてあげます。
用言と全く違う活用するものは特殊型無変化型というのがあります。
学校で過去の助動詞系の活用は覚えさせられるじゃないですか?
大体この商売長い事やっていますが、古文全然分かんないです、初めて勉強しますという子でも、「せ・まる・き・し・しか・まる」だけは言えるんです。
多分リズムがいいからでしょうが、あれを暗唱させられるんじゃないですか?
何で暗唱させられるかと言うと、用言の活用からは類推が聞かないからなんです。
だから学校の先生はあれを一生懸命覚えなさい、
あるいは打消の助動詞、「ず」や反実仮想の「まし」を活用表を言えるようにしなさい、「ませ・ましか・まる・まし・ましか・まる」って覚えさせられたと思いますが、それはそういう理由からな訳です。ちゃんと学校の先生の説明というのはちゃんと理由があって説明をしている訳です。
という事で、順番としてはまず大まかに接続・意味・活用の順
全体像をざっくり掴む事というのが大事になります。
それがきちんと一通りの所が頭の中に地図が浮かぶようになってからという事になります。
頭の中に地図が浮かぶようになったら今度はディティールを「る・らる」の受身はこんな場合、自発はこんな場合、みたいなディティールに入っていくというのが正しい順番なんだろうと思います。
全く地図もない状態で「る・らる」をディティールから入っていくと、
今自分が何をやっているのか、どこがゴールなのかというのが全く分からなくなってしまって、地図が無いからまさに迷子になってしまう訳です。
行けども行けども助動詞終わらないよ、というふうに生徒さんよくおっしゃるんですが、それは単純に迷子になっているからです。迷子になる前に頭の中に地図を作っておこうというのが助動詞の学習法だとご理解下さい。

見分ける方法

――なるほど。
あともう一点なんですが、
先ほどのお話しの接続・活用そして意味というものもあると思うんです。
よくある意味が複数個あるものの方が圧倒的に多いと思うんですが、
結局どれ?という事が結構起きやすいのも一応助動詞だろうなと思っていますが、
そこら辺はどう注意して勉強していったらいいんですか?

岡部:そうですね。
意味が見分ける事が容易なもの、条件があって、
受身の助動詞「る・らる」の場合であれば、例えば主語と動作主が異なるものは受身です。
知覚心情動詞にくっつくものが自発です。打消語を伴うものが可能です。
それ以外の消去法で攻めるものが尊敬ですよ、みたいな事をきっと習うと思います。
ですが、そうやって綺麗に見分けがつくものに関しては短文演習です。
よくある問題集で、且つ、その条件を意識しながら見分けていきます。
フィーリングではなくて、訳でなんとなく考えるのではなくて、
そうした見分けるポイントを意識しながら練習をしていくというのが近道になります。
ただ、全ての助動詞がそう綺麗に別れる訳ではない訳です。
典型的には「べし」とか「まじ」とかは意味が六つぐらいある訳です。
これが綺麗に条件があって切れる訳ではないです。
こういったものは諦めて訳を覚えるしかないです。
訳を覚えてその訳のストックを頭の中において本文中の中で当てはめていきます。
どれが訳しやすいかな?と見ていきます。
こればっかりはもうどうしようもないので、
努力というか数を当たっていくというか根性の世界になります。
ですが、そんな助動詞はせいぜいが「べし」と「まじ」ぐらいですので、
一生懸命とにかく型で見分けがつくものはさっさと論理的に見分けがつくような練習をしていくという事が大事になるかと思います。